ケース2.ありえない価値観を否定してくれた
Bさんは(34歳)は、結婚当初に病気を患っており、外で働けないために専業主婦として家庭を支えていました。
自身の実家は市外にあるため、近所に住む義母がたまに来ては家事を手伝ってくれていたそうです。
そのころから「病弱なお前のために俺もお袋も動いてやっているのだぞ」と言われていたBさんは、病気が無事に全快してから「働きに出たい」と伝え、夫に「家事を手抜きせずに全部やるならいい」と返されたのを承諾してパート勤務を始めます。
ところが、夫は掃除や食事で事あるごとにケチをつけ、「家事をまともにできないなら働くな」と辞めさせようとし、なぜか「お袋の世話もお前の仕事」と義実家の掃除まで押し付けます。
体調を気遣われることもなく、休日は溜まった家事をこなして終わるだけの日々に「せっかく病気が治ったのに、これではまた体を壊す」と思ったBさんは、状態を聞いて驚いた実家の両親の勧めもあり、離婚を決意します。
離婚を切り出すと案の定「ふざけるな」と反対され、Bさんはすぐ実家に戻り、それから調停を申し立てました。
裁判所に母親を連れて登場した夫は、Bさんのために自分たちがどれほど苦労したかを調停委員のふたりに訴えたそうです。
男性の調停委員は60代くらい、最初は「病気のあなたのために夫は力を尽くしてくれたのですよね」と夫の肩を持つような発言をしていたそうで、Bさんは大きなショックを受けます。
40代くらいの女性の調停委員も「仕事をしたい気持ちはわかりますが、家事も同じくらい大切では」と口にしたそうで、「私は口下手だし、緊張して自分の気持ちを全然話せなかった」Bさんは目の前が真っ暗になるような絶望感に襲われます。
雄弁に自分の頑張りを主張する夫に対し、病気で寝込んでいた自分に引け目を感じるBさんは弱腰のままであり、離婚は認められないもの、となかば諦めていたそうです。
風向きが変わったのは、夫の「妻は自分の実家を捨てるのが結婚」という発言。
Bさんが離婚を決意したのは両親がそそのかしたからと思いこんでいた夫は、「結婚したのならこちらの親に尽くすのが女性の役目。実家の親は捨てるのが当然」と言ったそうで、それに対して「あなたが親を大事にするように、奥さんにとっても両親は大切な存在ですよと話しました」と男性の調停委員はBさんに告げます。
この言葉に反発した夫は、家事を全部Bさんにやらせていたこと、義母の世話もさせていたことをみずから話し、「恩を返すのが人として当然」と主張しますが、「夫婦なら病気の妻を看病するのは当たり前だし、恩に着せて家事を当たり前にさせるのはおかしい」と調停委員に返されたそう。
それまで夫の一方的な話を受け入れていた調停委員でしたが、Bさんが受けていた不条理な状態を知り、態度が変わります。
結局、Bさんの通院を強制的にやめさせ義実家の掃除を優先させていたことがわかり、Bさんの離婚したい気持ちを汲んでくれて、夫を説得してくれたそうです。
「あなたが変わらない限り、Bさんが戻ってくることはないと調停委員が言ったら『もういいです』とあの人は答えたのだって」とBさんは当時を振り返って話しますが、最後はすんなりと離婚が成立し、本当によかったと笑顔を見せてくれました。
自力で主張を通す必要のある調停ですが、相手のほうが押しが強いと調停委員は耳を貸しやすく、事実を正しく見てもらえないときもあります。
それでも、論が破たんしていればそこを見逃さないのも中立の意識があるからで、夫の非常識な主張を正面から否定してくれるのも、調停委員の力です。
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