家庭裁判所で行われる離婚調停(夫婦関係調整調停)は、調停委員と呼ばれる人が間に入り、双方の意見を聞いて納得する案を出しながら進めます。
調停委員は裁判所が選んだ民間の人で、法律など専門的な知識を有していることがほとんど。
いろいろな夫婦の形を目の当たりにしているので、幅広い知見を持っているのと同時に感情についても杓子定規でない考え方を示してくれることもあります。きょうは、そんな調停委員のリアルについてお伝えします。
調停委員には「当たり外れ」がある!?

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離婚調停では必ず男女ひとりずつ調停委員がつきますが、申立人でも相手方になっても特定の人を指名することはできません。
また、担当になった調停委員がどんな経歴を持っているのか、何の専門家なのかも紹介されることはなく、臨む側からすればまさに「赤の他人」と言っても過言ではありません。
離婚や親権など争いを解決する場なら、誰だって調停委員に味方してほしいと思うものですが、中立を貫く立場なら思わぬ角度から意見されることもあり、気持ちをくじかれると「調停委員がおかしい」と責めたくなることもあります。
実際に「調停委員がハズレだった」と嘆く声は多いですが、なかには思いがけず「助け舟を出してくれた」「苦しみを理解してくれた」と存在に感謝する場面もあります。
それぞれの主張をどう判断するか、納得のいく妥協点はどこか、多角的に考えてくれるのが調停委員の役目です。
「当たり外れ」を感じるときがあっても、まずは信頼して誠実に気持ちを話すことが、解決の一歩だと感じます。
今回は、調停委員に救われたと話す人たちのエピソードをご紹介します。
ケース1.無茶な要求を押し通そうとする夫に

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Aさん(41歳)は夫の浮気が発覚して離婚を決めました。
確実な証拠もあることから慰謝料の支払いは確実と思っていましたが、離婚には同意するものの「お前がちゃんとしないから浮気したのだ」と慰謝料については認めなかった夫との話し合いは平行線となり、別居と同時に離婚調停を申し立てます。
調停委員はどちらも50代くらい、「落ち着いた雰囲気の人たちで、よく話を聞いてくれた」とAさんは話します。
慰謝料の支払いを渋る夫に対し、「裏切ったのだから償うのは当たり前」と説得しますが、「そもそも妻がベッドで相手をしないのが悪い」とAさん側に非のあるレスを理由に、頑として支払いを認めませんでした。
数年に及ぶレスについてAさんは「夫から誘われたことはないし、拒絶もしていない」と反論しますが、夫は「そんなはずはない。妻は嘘をついている」と返して話は平行線、「離婚したければ慰謝料は諦めろ」を押し通す夫の姿に、「絶望的な気分だった」とAさんは話します。
「どちらの言い分が正解かなんて、調停委員に判断がつくはずがないよね」と、レスについて何の記録もないことを確認されたAさんは感じたそうです。
何の進展もないまま暗い気持ちで迎えた次の調停のとき、男性の調停委員が「慰謝料の名目で金銭を支払うのが嫌なら、その分を財産分与に上乗せする形はどうか」と夫に提案します。
夫婦には貯金があり、財産分与では折半するのが通常ですが、それをAさん側が多く受け取るようにすれば慰謝料の代わりになるのですね。
Aさんに異論はないものの、夫は「財産分与に慰謝料は関係ない」と提案を突っぱねます。
それを聞いたAさんは「慰謝料は諦めて離婚するしかないのか」と何度目かの落胆を味わいますが、男性の調停委員から「何が理由であれ、配偶者を裏切った事実は変わらないでしょう。相手を傷つけておいて、自分に都合のいい離婚なんて無理ですよと夫さんに言いましたよ」と告げられます。
「まさにその通りだと思った」とそのときを振り返ってAさんは話しますが、調停委員によれば「Aさんが拒否したという証拠を夫は出さない」のも、不審だったようです。
何より、「だからといって浮気や不倫が正当化されることはありません」ときっぱりした口調で話す女性の調停委員の言葉が、Aさんの疲れ切った心を慰めてくれました。
それまで伝書鳩のように互いの言い分を伝えるだけだった調停委員が自分の味方をしないことを知った夫は、この言葉で財産分与の上乗せを決めたそうです。
離婚を急ぐAさんなら、慰謝料を突っぱねていればいずれ諦めるだろうと夫は目論んでいたのかもしれませんが、調停委員がそれを認めない姿を見せたことで、自分が諦める側になります。
Aさんは財産分与で貯金の全額を受け取ることとなり、無事に離婚が成立しました。
「ひとりなら絶対にこんな結末にはならなかったと思う」と、Aさんは晴れやかな笑顔で話します。