こんにちは、椎名トキです。僕の身体の性は女性で、心の性は定めていないセクシュアルマイノリティ(セクシャルマイノリティ)です。
ファッションはメンズファッションを好み、髪型もメンズカットのため、コーディネートによってはかなり男性寄りの格好のときがあります。
それが僕の「自分らしい姿」ではあるものの、自分らしい姿でいるために高いハードルを感じるときもあります。きょうは自分らしい姿が身体の性とギャップがある場合に起きる問題についてお話ししましょう。
レディースクリニックにて
20代のころは生理痛が重くなることがあるものの、毎回ではなく仕事の繁忙期のあとであったり、私生活が忙しかったり…原因がなんとなく自分でも察することができたので、あまり婦人科系の病気に対する危機感がありませんでした。
それが30代に入ると、勤め先の健康診断のメニューに婦人科のメニューが加わり、おのずと意識するように…。加えてこのころから仕事のストレスが原因で不正出血や生理不順が相次ぎ、さすがに心配になったのでレディースクリニックをはじめて受診することになりました。
クチコミなどを参考にしながら受診するクリニックを探していると、「女性専用」という医院を見つけました。そもそもレディースクリニックは文字通り女性特有の不調、婦人科をメインで扱っているクリニックです。
そのなかでもこの「女性専用」のクリニックには男性が院内に入ることはもちろん、クリニックによっては院外の共有エリアでの待機もできないのだそう。
僕はレビューのよさで、この「女性専用」のクリニックを選んだのですが、受診の際にメンズファッションで行くことに躊躇いました。
診察内容に女性器の検診などが含まれることが多く、パンツの場合は下半身に何も身につけない必要があり、スカートであれば下着を外して捲り上げれば済むので受診がスムーズだということは知っています。
加えて、「男性がいられない場所で男性に見られ兼ねない恰好をしてもいいのだろうか。ほかの患者さんに何か思われないだろうか」と不安になりました。
はじめてのレディースクリニックで、しかも性自認が女性に定まってはいないのに女性専用のエリアにいることに対して気負ってしまっていたのです。
結果、初診ではいつもよりも中性的に見えるようなコーディネートで足を運びました。もちろん身体が女性だから婦人科を受診しているので、僕はなにも悪いことなどしていませんし、気負う必要などありません。
もしも僕が同じような話を誰かから聞いたら、気負わず受診することを勧めるでしょう。できる限り、身体の不調を優先するべきです。
しかし自分のこととなると、好きでしているはずのメンズファッションに身を包んでいることを含めて、なんだか気負ってしまいました。
もちろん、女性専用クリニックが存在する意義は大いにあります。女性特有の不調や悩みを取り扱うので、医師の性別を選べる場合は女性の医師が人気であることも多く、僕も女性の医師を選びました。
医師を選べるのだから、なるべく患者や付き添い含めて男性がその場にいないほうが安心する女性も多いと思います。デリケートな問題だからこそ、「女性専用」を選ぶことで受診へのハードルを下げることもできるでしょう。
女性専用だから安心している気持ちと、性自認が女性ではない上に、表現する性が男性に傾いていることへの気まずさで、複雑な心境でした。
僕の場合は胸の手術をしておらず、コーディネートを変えれば中性的に見られると思います。しかしもっと外見を男性に寄せていたら、受診しようとするときに感じるハードルはさらに高くなってしまうでしょう。
身体の性と外見にギャップがある場合
レディースクリニックの待合室の端で順番を待つ間、自分の性自認について考えました。
レディースクリニックは名前の通り婦人科を扱うクリニックなので、たとえ心が女性以外の性であっても、患者の身体は女性です。
たとえば自分がFtM(性自認が男性)で手術をしていない場合や手術をする予定がない、もしくは表現する性がいま以上に男性寄りだったとしても、身体が女性である以上は婦人科の不調や病気は起こる可能性があるため、定期的に検診を受けることが大切です。
身体が女性であれば、積極的に婦人科を受診できたほうがいい。身体の不調を感じていれば、なおのこと優先して受診するべきです。
それでも、たとえばFtMのかたが受診した際、外見でシス男性(身体と心の性に差異のない男性)と認識されれば、居合わせたほかの患者には不安を与えてしまったり、いぶかし気な視線を送られる可能性もあるでしょう。
また医院側からの対応を想像すると、二の足を踏んでしまうだろうと思います。特に「女性専用」とされているクリニックは、たとえ安心感があっても避けるかもしれません。
その場合はクリニックの選び方も変わるだろうと思い、診察を終えてから調べてみることにしました。すると、FtMのホルモン治療と婦人科を兼ねているクリニックや、LGBTフレンドリーを掲げているクリニックを見つけたのです。
「こういうところなら受診できそうだ」と思ったものの、そういったクリニックは全国の至るところにあるわけではありません。
さらに調べてみると、身体の性と外見で表現している性にギャップがある場合に、保険証などの身分証明書で起こる問題を知りました。保険証の性別と名前の印象と外見の性が違うからと、本人なのに本人だと信じてもらえなかったり、説明が必要になることがあるそうです。
場合によっては毎度クリニックの受付でカムアウトをしなければならないなんて、僕だったら嫌です(保険証は2012年に厚生労働省により表面の性別を「裏面参照」とし、裏面に戸籍上の性別を記入することができるようになっています)。
対処法としては、自費診療を希望した場合は保険証が必須ではなくなるため、病院でなんらかの身分証明書が必要な際は、性別表記がなく、写真付きでひと目でわかる運転免許証の利用が便利なんだとか。
セクシュアルマイノリティというくくりは、当事者以外のかたが思うよりもかなり大きなくくりで、自分が該当しないマイノリティの部分に対しては、やはり意識しないと知らないことが多いと改めて感じました。