季節もすっかり春めいてきましたね。この春から新入学や新社会人や転勤などで生活が変わったというかたもいらっしゃるのではないでしょうか。
学生時代に比べ大人になると、子どもの入学や卒業はあっても自分由来の変化が起きにくいですよね。
自分由来の変化を起こすアクションのひとつとして、「習い事」をオススメします。実は僕も生活に変化をもたらすために、大の運動音痴にも関わらず、およそ5年間タップダンスを習っていました。
きっかけは仕事の不調
一言に「習い事」といっても内容は多種多様。
趣味としての習い事でも、スポーツやダンスなど身体を動かすものもあれば、手芸や絵画のように身体を動かさないものがあります。目的も、ヨガなどの健康管理が目的の習い事もあれば、語学学習や資格取得のようなスキルアップのための習い事もありますね。
そんな習い事のなかでも、僕が習っていた「タップダンス」は、ややニッチな習い事かもしれません。
はじめたのは27歳のころ。当時23歳で入社した企業の仕事にもだいぶ慣れて、中堅社員の立ち位置に差し掛かったところでした。
社内での次のポジションや昇進のため、期待されるハードルが新人のころよりも上がり、つまずき方や挫折を感じるポイントも変化してきていました。
体感的に、何をやってもうまくいかない。そのせいか毎日の会社と家の往復にも疲れてしまっていたのです。
そんな生活になにか変化がほしいと感じていました。具体的なほしい変化は、“できること”を増やして、成功体験を得ることでした。
ちょうどそのころ、仕事でのストレスを癒すために、幼少期から大好きだったテーマパークの年間パスポートを購入。毎週のように足を運び、大好きなショーを鑑賞して日々の心の疲れを癒していました。
足しげく通ったショーのなかでも、特にタップダンスが登場するショーに心惹かれ、気づけばデテーマパーク外でもタップダンスのショーを見に行くまでになりました。
あるとき見に行ったタップダンスのショーイベントが、タップダンスをはじめたきっかけです。
そのイベントでは小さな子どもからお年を召したかたまで、まさに老若男女がダンスを楽しんでいました。そんなダンサーたちの姿を見て、自分もやってみたいと思ったのです。
タップダンスなら、社交ダンスと違い特定のパートナーがいなくてもひとりで習える。そしてある程度のご高齢のかたでも続けていることから、自分が歳を重ねてからも楽しめる趣味になるかもしれないと思いました。
なにかを始めることのときめき
思い立った僕はタップダンスのはじめ方を考えてみました。やはり、タップダンス専用のシューズは必要不可欠。スポーツ用品店や靴屋さんを何店舗もまわりましたが、見かけることはありませんでした。
「もしかしたら通販で買えるのかな」と思い調べてみると、都内にタップダンス用のシューズ専門店があることを知りました。
幸いにもその店舗の最寄駅は、通勤経路を少し遠回りすれば足を運べる範囲。通販で買って失敗するのも嫌だったので、足を運んでみることに…。
直近で閉店に間に合う時間で退社できそうな日を予想し、当日は仕事を大急ぎで終わらせ専門店へ急ぎました。
「ついにはじめてしまうんだ」とワクワク、そして緊張しながら店舗のドアを開きます。
すると併設されたレンタルスタジオから、タップダンス特有の「タップス」と呼ばれる金属と、音がよく響くようあつらえた床材とがぶつかる音が店内を満たしていました。
一歩踏み入れるとモニターからもタップスダンスを題材にした映画が流れていて、壁沿いに置かれた棚にはシューズが所せましと並んでいます。
きょろきょろ眺めていると「初心者向け」と書かれたPOPと比較的手軽な価格のシューズを見つけることができました。
そんな僕に店員さんが声をかけます。
「シューズをお求めですか?」
はいと頷いて、これからはじめようと思っていることを伝えました。
「いいですね!それならまず試着してみましょう」
初心者向けのシューズは、ストラップ付きの丸みを帯びたパンプスタイプと、オックスフォードシューズタイプの2種類しかありません。
僕は来店前にWebサイトで調べ、オックスフォードシューズのタイプと決めていました。試着は不要かもしれない。初心者感丸出しなのも、実際そうなのだから仕方ないけれどなんだか気恥ずかしい。
それでも好奇心が気恥ずかしさにわずかに勝って、次の瞬間にはまた頷いていました。
いつも履いている靴のサイズを聞かれそれに答えると、店員さんは僕の足に合わせたサイズのシューズを持ってきてくれました。
箱に書かれたサイズを見ると伝えたものより僅かに小さめ。もしかして僕の声が聞き取りにくかったかなと思い、サイズが異なることを伝えると、「タップシューズはいつものサイズの0.5下のサイズを選ぶといいですよ」と教えてくれました。
なるほど。これは通販じゃ知ることができなかった情報かもしれません。
店舗の中央には試着用にタップダンス用の板と、板を囲むように椅子が置かれていました。その椅子に腰掛け、シューズは店員さんの手から僕の手へと渡り、そして足をすっぽり覆います。
いつもより小さいサイズということもありぴったりとフィットしていて、靴紐をキュッと縛るとシューズが足の一部になったような感覚になりました。
ドキドキしながら今度は足を板に乗せて立ち上がると、小さくカチカチと音を鳴らして板の中央に立ちます。足を歩くより少しだけ高く上げ、軽く振り落とすとはっきりとしたカチッという大きな音がしました。
「あ、」紛れもなく自分の足が奏でた音。このたったひとつの音に、僕のこれからを変えてくれるようなたしかな予感をおぼえたのです。
こんなに胸がときめく試着は、いままでしたことがありません。これまで買ったどんなお気に入りの靴よりも素敵なところに連れて行ってくれるような、そんな予感とときめきでした。