「掟破りの恋」の始まり
教習所から戻り、数日経った頃、非通知で着信がありました。誰だろう?と不思議に思いながら出てみると……
「先生…!?」。
「もしもし?」というその声だけで誰だかわかるほど、帰京してからもシンドウ教官に恋い焦がれ、心のどこかで電話が鳴ることを願っていたのでしょう。その声の主はすぐにわかりました。
第一声に何という言葉を発したのか、その電話でどんな話をしたのかは、もう覚えていません。ただ覚えているのは、「お前なぁ〜、あんなみんなの前で『どっか連れて行って』はないで。もっとバレないように言ってくれたら休み合わせて出かけられたのに…」という言葉。
「思い違いじゃなった…!先生は、ちょっと特別に思ってくれていたんだ…!!!」
嬉しくも、切ない気持ちになりました。もっと一緒にいたかった、ドライブに連れて行ってもらいたかった…。
聞くと、教習所の教官には「生徒と連絡先を交換してはいけない」という決まりがあるとのこと。
それからしばらくは非通知の電話を待つだけでしたが、しばらく経ったころに電話番号を教えてくれました。
会いたい、でも会わない。私がそう決めたわけ
それから電話やメールで連絡を取り合う日々が始まりました。
「好き」という言葉や「付き合いたい」という告白は、どちらからもありませんでしたが、お互いに付き合っている人がいないことを確認し合い、「早く会いたいね」と話していました。
そんなある日―――。
先生から「夏に研修で東京に行くことになった」という連絡がありました。「研修は夕方には終わるから、一緒に晩ごはんを食べよう」と。
待ちに待ったシンドウ教官との再会。
でも、浮き立つ気持ちの傍で、どんどん冷静になっていく自分がいました。
「先生に会って、私はどうするんだろう?そのあと、私たちの関係はどうなっていくんだろう?」
シンドウ教官から電話やメールが来るのは嬉しいし、話していて楽しい。好きな気持ちは変わらない。……ただ、私たちの関係に“この先”はあるのかな?
明確に「何がやりたい」という夢や目標はないけれど、私は都会を離れたくない。本音を言うと、彼氏だっていますぐにほしいし、その彼氏とは食事に出かけたり、テーマパークに出かけたり、誕生日や記念日を一緒に祝いたい。もしシンドウ教官と「付き合う」ことになっても、それらは叶わないこと。
そもそも、「毎日のように電話やメールをし合っても、彼の暮らしや彼を取り巻く環境、生活のなかでのこだわりなどは想像の範囲でしかないし、これからもそれは変わらないだろう」と思いました。
そして私は、どんどんシンドウ教官と距離を置き始めました。
嫌いになったわけじゃない、冷めたわけでもない、ただ「自分のこれからのため」に。