ライバルの失恋と芽生えた自信
それからは、「どうかきょうの教習はシンドウ教官が担当になりますように…」と願う日々。
自分の存在に気づいてほしいという思いから、学科や技能の単元が終わる時間になると彼のいそうな場所に行き、見つけたら声をかけたり、挨拶をしたりしていました。もちろん、アヤには気づかれないように…。
幸いなことに、何度かシンドウ教官が担当になったので、さりげなく好意をアピール。無事に卒業できたら一緒に来た友達と四国を一周して帰りたいと思っていることを話したり、教官の出身地のことや教習所の近くのおすすめスポットなどを聞いたり、好きな女性のタイプや結婚の有無などを訊ねたりしていました。
卒業が見えてきたころ、アヤが「私、先生に告白する」と宣言したときには心臓が飛び出そうなほど動揺しましたが、そのころには恋愛体質な自分の努力の甲斐があったのか、ちょっと自分は特別扱いされているような、妙な自信を抱いていました。
頻繁に目が合ったり、向こうから話しかけたりしてくれるようになっていたのです。
「先生がアヤに話しかけているのは見たことがない」と、申し訳なさを感じつつも、ちょっと優越感を感じている自分がいたことは否めません。
アヤはその後、告白し、失恋。私は体調不良で教習を受けられない日があり、卒業が延期されることになりました。
最後に渡したラブレター
アヤもヒトミも帰ってしまい、ひとり残されたころ。いつものようにロビーで見かけたシンドウ教官に、「卒業、伸びちゃった。四国一周もできなくなったから、先生、どこかに連れて行って!」とお願いしたところ、「それは無理だな」と一言だけ返事が返ってきました。
「気持ちが通じ合っていると思っていたのに。思い違いだったのかな…」そんな胸の苦しさを抱きながら、卒業の日が間近に迫っていることへの焦りを覚えていました。
迫る卒業の日。もう会えない。アヤみたいに告白するべきかどうか…。
散々悩んだ末に出した答えは、「手紙を渡す」ということでした。
教習所での生活が充実していたこと、特に先生との技能研修が楽しかったこと、この町がすっかり好きになったこと。そして、「東京に来るときには、よかったら連絡ください」と、自分の連絡先を書いて渡しました。半ば「連絡なんて来ないだろう…」と諦めの気持ちで。