環境が夢を大きく膨らませ、背中を押す
M:どこに身を置くかって本当に大事なことだと思っていて、それが私のベクトルの方向がブレなかった理由かなと。あとは本当に運がよかった!
まず、新卒で入社した会社が世界的に展開しているアミューズメントパークの経営をしていて、若いうちから大きなショーの構成に携わることができたこと。
早いうちから「舞台の幕が開く瞬間に味わう感動」をビジネスベースで体感できていたし、ショー大好き人間に囲まれていたから、NYで抱いたあの感覚を持ち続けることができていたの。向かっている方向は間違っていないなって、自信を持って仕事できてた。
O:確かに、同じ思考の人に囲まれて仕事するのは大事だよね。でも逆にそんなに大きな案件を持たされていたら、現状に満足してしまわない?国内ですでにある種のプロデューサーになっているし。
M:楽しい毎日を過ごしていたのは事実。ただこのショーを作り上げているのも、誰かが調達した資金だよなぁと思い、その後に会社の財務IRに異動してみたんだ。もっと深掘りしたくて。そしたら、やはり留学行きたい欲に火がついてしまって(笑)。
O:そこでの経験が感動的だったとか?
M:ん〜、ある意味「逃げ」だったね。いままでステージに感動する観客の笑顔を見てやりがいを感じて仕事をしてきたけれど、今度は感情のない数字の羅列とのにらめっこ。ショーを作り上げるのに必要な業務であるのは重々に理解しているけど、「観客の顔が見たい!あ〜抜け出したい!」っていう気持ちが満載。
このままこの仕事をし続けるなんて無理!ブロードウェイで活躍する夢を忘れてしまいそう!早く切り替えなきゃ!そんな思いが私の留学欲を掻き立てたんだ。苦手なことを知るって、人間大事だね。異動をせずに心地いいお湯に浸かり続けていたら、いまにはつながっていなかったと思う。
あとこのころに入籍をしたんだけど、プロポーズの返事の際に「私、留学行くけどOK?」を交換条件として提示したんだ。
O:ショーの現実的な部分を知ってしまったということだね。でも確かに、自分の苦手を知ることも大事だよね。
再び直面した「プロの壁」
O:ちゃっかりダンナさんに結婚の条件を突きつけたのもいいね(笑)。夢への想いがより強固になったと同時にプライベートも落ち着いて、そこからすぐに留学準備に移行、ですか?
M:いや、そのタイミングで運よく社内公募が通って、広告会社への出向が決まって。
O:え?どういうこと?ちょっとまたプロデュース業から離れてない?
M:公募していたジョブが、コンテンツビジネスプロデューサーといって、伸びるであろう作品やイベントに投資を行い、クライアントが必要とするスポンサー集めやプロモーション戦略の具現化を担うという少し変わったポジション。いわゆるクライアントの広告を取りに行くような、ザ・広告業という仕事がメインではなかったの。
O:その業務って、まさにmomoちゃんがブロードウェイでやりたい仕事に関係する仕事!
M:本当に!プロデュースする側だけでなく、投資側に回ったことでまたひとつ知見が増えたのと、海外大学院卒の人も多くて、前よりも夢への通過点である留学が手の届く現実に感じられたのもこのころ。
それと同時に、この部署に所属するメンバーはミュージカルやショーにまつわる専門知識だけではなく、事業立ち上げや資金調達、いわゆるビジネス面に関して深く精通している方が多く、刺激的な毎日だったんだ!副業でミュージカルのコメンテーターとして第一線で活躍されているプロ級の方もいらっしゃって。
O:業務だけでなく、人としての魅力もあふれた部署に出向したんだね。話を折ってしまうのだけど、これまでの話は「NYでプロデューサーへの道!」って感じ。でもいまの専攻って脚本家だよね?そこの舵きりはどこで?結構ここまでの話だと順風満帆に見えるのだけど。
M:私も当初は劇場経営の大学院に行こうと思っていたんだけど、広告会社でよくも悪くも打ちのめされたの。プロデューサーが数多く存在するなかで、経営的視点やミュージカルの専門知識を持った優秀な人たちに太刀打ちできるか、と。この人たちを超えるような人材になって、果たしてNYで活躍できるかなって。
O:ここの壁も高いというわけか。
M:そう、そしてこのタイミングで劇場経営専攻がある大学院のオープンキャンパスに足を運んだんだけど、そこで衝撃的で考えを改める出会いが…。