Case2.外交官・40歳
会った場所:銀座
銀座の高層ビル最上階にある、それはそれはおしゃれなイタリアンが待ち合わせ場所。食べログで調べると夜の平均が10,000円~14,999円とある。さすが外交官…。
店内はやたらとキラキラした照明でいろどられ、客層も落ち着いて…いると思ったんだけど、ん?
感じた違和感の正体は、お相手の待つ席に座らせてもらい、挨拶を交わしてから気づいた。両隣…どうしても聞こえてきてしまう会話から察するに同伴のキャバ嬢と客!中年~初老の男性と20代であろうぴちぴちの女の子が座って、ちょっといちゃいちゃしている。
このキラキラ(?)キャバ嬢とオヤジ(失礼)に挟まれて初対面の異性と話すのか?気まずっ!
ひとまずも外交官が頼んでくれた白ワインで乾杯。やはり彼の仕事の話を中心に会話が進んだ。外交官と話すのも初めてのため、面白く聞ける。ヨーロッパ各地の話は興味深いし、旅行している気分になれた。そして料理が!おいしい!!!さすが銀座同伴でも使える最高のお店。こんなとこで食事する機会そうそうないし、ととにかく食べる私。
「せしりあさんはおきれいですね」
「そうですか?ありがとうございます(隣にいるキャバ嬢が横目でこちらを伺っていることが気になる私)」
「できたらおつきあいしたいんですけど、実は…」
(タイミングよく牛フィレ肉が運ばれてくる。肉にかぶりつく私)
「来月からスイスに赴任するんです」
「あ、そうなんですか。それは急ですね」
「それで、一緒に行ってくれる女性を探してまして。外交官婦人になりませんか?」
ガイコウカンフジン。
「スイス。いいですねえ。戦争を放棄している平和の国ですもんね」
「あ、そうですねえ。素敵な家ももう決めてきてあるんです。でもひとりでいくのは寂しいのでね」
あまりにも早い展開で正直戸惑うが、スイス…なんか人生変えられそう。楽しいかも。悪い人ではなさそうだし。ちょっと心が揺れる。
「あなたの仕事は僕の仕事を支え、週末にはホームパーティーを開いて、ほかの外交官婦人たちをもてなすことです」
「‥‥」
ほーむぱーてぃ。それは、ピンチョスだのパエリアだのを手作りして、なんならケーキとかも焼いて、子どもたちを連れてやってくる主婦たちと、旦那の話やら幼稚園の話やらをひたすら繰り広げるあれか?
婚活当時の私の生活は自炊ほぼ皆無、仕事終わりのごはんは東急ストアのお惣菜(か、面倒なのでコーンフレーク)。平日は仕事して土日はほぼほぼ好きなバンドのライブに全国遠征するか、好きなバンドの接触イベントに行くか、バンギャのオフ会に参加するか、あるいは寝ているか、のどれかである。
たまに自炊しても、食器を洗うのが大嫌いなため、焦がした鍋をそのままにしておいたところ、数日後にカビてしまい、鍋ごと捨てたことすらある。とてもガイコウカンフジンとやらが務まるとは思えない…。
「せしりあさんは料理はお好きですか?」
濁りのない瞳で尋ねる外交官。
「好き…かどうかはわかりませんが少なくとも得意ではない…ですね…」
彼は何かを察し、おいしいレモンケーキを最後に頼んでくれた。ありがとう。