シングルだからこそ
これから、どうしていこうか。店の経営は、いまはなんとかなってはいるが、駅前の商業施設のことも商店街に来る人たちが減っていることも考えると、長い目で見るとやっぱりいろいろ工夫していかなければ、なかなか大変そうだ。万が一立ち行かなくなったら店を閉めてしまってまた働けばいいのだが、できれば、そうしない方法を考えたい。
毎月決まったお給料がもらえる会社員とは違って自営業は不安定だが、それをどこかおもしろがってしまっている自分もいる。よくも悪くもひとりなのだから、できることはやってみよう。真依子は決意し、立ち上がった。
温泉からあがって服を着て、自動販売機にあったレモン味の炭酸ジュースを買いごくごくと飲み干すと、からだにエネルギーが満ちて行くような気がした。
温泉から戻ると真依子は店へ行き、店内にあるパソコンを立ち上げた。オンラインショップについて調べるためだ。いまはSNSで発信をしているが、オンラインで商品を販売すれば、店舗に来られない人にもアプローチできるかもしれない。
あとは、この前たまたま雑誌で見た、リサイクル用品で作られたペンケースを仕入れてみてもよさそうだ。途上国で拾ったジュースの缶を材料にしているらしい。デザインもかわいいし、売上の一部が寄付に回るというのも、ほんの少しでも社会の役に立つ気がする。
ひとりでできることは本当に小さなことだが、いまの自分でできることをしたい。いつだって、なにかできることはある。将来、いつかどうしても店が立ち行かなくなったとしても、真依子には失うものはない。また、そこからやり直せばいいのだ。
小さな小さなこの店は、ゴージャスでも広くもないけれど、自分がつくった自分だけのお城だ。品ぞろえも、レイアウトも、かける音楽も、商品を入れる袋ひとつ、自分で決めることができる。
ささやかなこだわりを持って、好きなものに囲まれて働くというのは、日々の大変なことや面倒なことを飛び越えてしまうほどの幸せを、真依子にもたらしてくれる。
私にはまだまだ時間がある。膨大な時間が。ひとりだからこそ、私はまだまだ、どこへでもいけるんだ。真依子は、深く息を吸い込んだ。
真依子がほかの選択をしていたら…
Choice.1 結婚を選択「ピーマンと夜とわたし」
Choice.2 転職を選択「銀のボールペン」
Choice.3 結婚でも転職でもない道を選択「pleasant life」
- image by:Unsplash
- ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
- ※掲載時の情報です。内容は変更になる可能性があります。