ふたり目問題
寝室に人の気配がして目を覚ますと、凛の寝顔を覗き込む冴島の姿があった。真依子は凛を寝かしつけながら、一緒に寝てしまったのだった。
「ごめん、起こしちゃった?」
冴島は小声で話す。
「大丈夫。夕飯、冷蔵庫に入ってるから。私はもう寝ちゃうね」
「わかった、おやすみ」
冴島はそっと立ち上がり、寝室のドアを閉めた。
いまから4年前、真依子と冴島は妊活をスタートしたが、しばらくしても妊娠には至らず、不妊治療に取り組むことになった。その結果、3回目の人工授精で無事に凛を授かることができた。子どもがほしいと決めてから1年に満たなかったので、クリニックからは、非常にスムーズなほうだと言われた。
それでも無事に妊娠できるまでは不安だったし、痛みやプレッシャーも大きかった。なにより仕事をしながらの通院は本当に大変で、休みをもらいながらだったが、休職してしまおうか何度も考えた。肉体的にも精神的にも、とにかく消耗した時期だった。
それでも近ごろ、真依子の心はざわついている。「できるなら、もうひとり」という想いが湧き上がってきているのだ。たまたま、社内や友人に、ふたり目妊娠や出産のニュースが続いたこともある。真依子が結婚して2年後に結婚した親友の早紀にも、去年、年子でふたり目の男の子が産まれている。
もちろん、40近い年齢で無事にひとり授かることができただけでも、ありがたいことなのはわかっている。実際に、凛を授かってからしばらくは「子どもはこの子だけで十分。大切に育てていこう」と思っていた。はず、なのだが。
この子ができるまで、産まれるまで、産まれてから、あれだけ大変だったのに。これまでのことが断片的に頭に浮かぶ。それでも、もしふたり目ができるのならほしいと強く感じる。
最近は冴島も忙しく、真依子も仕事と家庭を回すのに精一杯で、そういう話もできていない。前回で自然妊娠はむずかしいことがわかっているから、ふたり目を目指すのであれば、また夫婦でクリニックへ通うことになるだろう。
もちろん、妊娠できるという保証はない。そもそも、自分ひとりだけの考えで決められることでも当然ない。だが日に日にリミットは迫っていて、そう先延ばしにはできない。思いを巡らせているうちに意識が遠のき、気づくと真依子は深い眠りへと落ちていった。