元カレの親友と過ごす、ビール一杯分の時間
待ち合わせ場所に行くと、ブランドの紙袋をぶら下げポツンと立っている男友達、康平がいた。その紙袋は、案の定彼女にあげるはずだったプレゼントだ。
「いる?俺いらないからお前にやるよ」
「いやいいよ、何買ったの?」
「財布」
なんとハイブランドの長財布を買ったんだという。大層高そうだったが、値段は聞かなかった。「明日質屋に持ってって売ろうかな」と寂しそうにつぶやく横顔をいまでも覚えている。
康平についていって店に入ると、カップルや学生で店内がごった返していた。
「ねえ、予約してないから入れないよ。満席じゃないかな」
「いや大丈夫、すみません予約していたんですけど」
まさかと思いつつ、黙って席に案内される。とりあえずビールで、と頼んですぐ、たまらず私は訪ねた。
「もしかして彼女とのデートで予約してたの?」
「そう、二軒目に丁度いいかと思ってさ。一軒目は仕方ないからキャンセルしたよ」
繁華街が一望できる、お洒落なバーだった。通された席は景色がよく見える、窓辺のソファー席。こんないい席、予約していないと通してもらえないだろうね。
悲しい横顔に、かける言葉も見つからない
「それでその、別れたって?」
運ばれてきたビールを一口飲んで、私は切り出した。
「そう」
地の果てまで落ちたのか、と言いたくなるくらいどん底なテンションの康平。
「なんでその、浮気されたってわかったの」
「それが、見ちゃったんだよ、ホテルから出てくるところ」
「ええ」
しかもクリスマスイブの朝に、である。
「俺、きょう早番で出勤早かったんだよね。それでいつもは自転車でのんびり来てたんだけど、きょうは電車だったの。駅から職場まではどうしてもそのホテルの前とおらなきゃいけなくてさ、通ったらその、出くわしたわけ」
最悪だ。
「しかもさ、相手誰だったと思う?」
まさか。
「お前の元カレだよ」
「つまり康平の親友じゃん」
「そゆこと」
ひどい展開だ。まるでドラマだ。私をついこの間振った元カレと、康平の彼女が浮気していたというのだ。康平にしてみれば、親友が自分の彼女とホテルから出てきたのだ。
「最悪でしょ?はーあ、俺もう、つらいやぁ」
そう言って窓の外を眺める康平に、掛ける言葉もなかった。私ももちろんショックだったのだが、康平の気持ちを考えるとそんなの大したことないダメージだ。
これまで、失恋した女友達を慰めたことは何度もある。「パーッと遊んで忘れようよ!」なんてさんざん騒いだり、シクシク泣いている友達の肩を抱いて朝まで愚痴に付き合ったこともある。
しかし、クリスマス当日に自分の親友が彼女と浮気している現場を目撃し、デートの計画も何もかも全部水の泡になった人は、どうやって慰めるべきかわからない。
私は康平の悲しい横顔をただ見つめ、ぬるくなっていくビールを口に含むことしかできなかった。いつもよりも、お酒の味がやけに苦く感じた。
このあと私は仲間とのパーティーに向かったのだが、パーティー中もなんだかモヤモヤとしていて複雑な気持ちだった。
次の日康平に連絡してみるものの、返事は「昨日ありがとー」とスタンプのみ。私は、それを見てますます苦い気持ちになるのだった。
楽しいパーティーと康平の苦い顔が入り混じって、複雑な感情を抱いた。