アメリカ。多国籍な人達が暮らしているこの国だからこそ、おおよそその国の人たちが好む「食」もいろんなところに点在しています。
私が住んでいるロサンゼルスは特にアジア人が多く、中国系の料理(台湾、四川、シンガポールなど)やフィリピン料理、韓国料理、日本料理はもちろん、キューバ、ロシア、メキシカンなどもあって国籍関係なく、手軽に食べることができます。
でも、なぜか「アメリカ料理」という看板をあげている店はないから不思議。
アメリカを代表する料理として、まず頭に浮かぶのは「ハンバーガー」や「ステーキ」という肉食です。
しかし最近なんと「健康志向」なのか、宗教的な理由なのか、アメリカンが出ししているレストランやファストフード店は「ビーガン」「ベジタリアン」用のメニューもたくさん取り入れられていたり、サラダオンリーのお店も見かけます。
きょうは、そんな「食」へのこだわり、特に「偽物」と「本物」について思ったことをお話しましょう。
「食材」からも格差がわかる
アメリカンなレストランに行けば、一日通して朝食メニュー(パンケーキ、ベーコン、ハム、エッグ)は食べられて、昼食メニューはスープとハンバーガー。ステーキなども朝から食べることができるのだが、「これこそアメリカ料理!」という「推し」はいまだにありません。
ついでに言えば、一口に「アメリカ料理」とは言っても、「黒人料理」と「白人料理」は違う。たとえば、白人の多く住むストアにはあって、黒人が多く住むストアーには置いてないものもあるのです。
肉を例にあげれば、黒人の多く住む地区では豚足やらホルモン系は必ず置いてありますが、白人が多く住む地区にはそれらはありません。
いわゆる“意識高い系”のストアには、オーガニックのものばかりが目立ち、マーガリンなどいまだ「体に悪そう」なイメージがあるものは置いていないのです。客層が違う地区のストアには、大量の油、マーガリンは安価で売られています。
食にも格差があることはご存じでしょうか?貧しい地区にはふくよかなかたも多いのです。
メキシコ人ご用達のストアでは、豚の耳から頭も足も。中国やフィリピン系のストアでは、肉の内臓はもちろん、魚も淡水魚、海水の魚、見たこともない一体何の肉のどの部位なのか想像できないようなものが並んでいます。調味料も然りで、何に使うものなのかさっぱりわからないものも多いです。
アメリカの高級日本食店の残念な「食」
多種多様な「食」を楽しめるロサンゼルスですが、「本物」と「アメリカ人好み」のレストランとでは大きく違うことをお話しておきましょう。
メキシコ料理を出すレストランにメキシコ人がいない、日本料理店なのに日本人のお客がいない、韓国料理店なのに韓国人がいない、中国料理のはずなのに中国人はいない…このような現象は多くあります。
かつて私もハリウッドに住んでいたとき、高級な日本料理を出す有名レストランに足を運んだことがありました。
見事な日本庭園に、古風な日本家屋。庭には池があり、錦鯉まで泳いでいました。「ししおどしがあれば100点なのに…」と思いながら店内に入ると、ウエイトレスは皆着物を着ていました。板場もある…そんな映画に出て来るようなレストランでしたが、日本人の客は誰もいませんでした。
私たち以外はすべて「白人」。箸の使い方をみれば、なるほど「日本通」であることはうかがえます。
私と一緒に行った友人も、一度メニューに目を通しましたが、「“日本食”だから食べられないものなんぞあるわけがない!」と高をくくり、「おまかせコース」を注文。
さてさて、「どれほどの料理を出してくれるのか?」と期待して待っていると、着物姿のサーバーさんが「御膳」を抱えて、そろりそろりと内股でこちらに向かってくるではありませんか。御膳に盛られた小皿や小鉢は7種類くらいあったと記憶しています。
ところが、日本で育ち、日本食で育った私が、到底食べることができない「未知なる日本食」に遭遇したのです。なかなか強烈な味だったため、いまでもしっかり記憶に残っています。
まず驚いたのは、小鉢に盛られた前菜と思われる「蕎麦のオリーブオイル炒め、パルメジャンチーズ掛け」。
まさに、日本の「和」をぶっ壊した一品。「あっさり塩味でチーズの風味をご堪能ください…」ってか?そして、「小魚のピーナツバター和え」…お菓子ですか?
ほかに、メインと思われる大きめの皿には「天ぷら」が…。「これなら間違いないだろう」と口に入れましたが、噛むまでわからない厚めの衣に身を纏った得体の知れない一品「チーズの天ぷら」。たしかブルーチーズだったと思います。
私はチーズが大嫌いなため、口にいれた瞬間、思わず「ポン」と口から吐き出してしまいました。
たくあん(たくわん)は「ジャパニーズ・ピクルス」と称され、梅干しは「プラム」、茶碗蒸しは「スチームエッグ」で、味噌汁は「ミソスープ」…英語に直せばどれも「舶来品」なのは理解しますが、調理法と食材のミスマッチは、「もともとこういう食べ物です」と慣れ親しんだ人しか食せません。
隣に座っていた「常連」とおぼしきカップルは、「ベリー・ベリーグッド!」と大騒ぎ。「アイラブ・寿司」とにこにこ口にほおばるカップルの御膳をそっとのぞき見してみれば、すべて「巻物」でした。
これは私が“アボカド巻き”など知らなかった時代のこと。巻物から飛び出している黄緑色のドロドロのペーストが巻かれた「巻物」を口にして、「うまい」とため息をつく彼らを横目に、「あれを寿司の代表のように吹聴されるとかなわないな…」と怖くなりました。
近年あれは「カリフォルニアロール」として地位を獲得しましたが、「日本のどこに行ってもアレが食えると思うなよ!」と、いまでもそう思っています。