承諾していないのに
お隣の女性は「ボランティアは義務じゃないのでは」と驚き、「みんなやっていますって、ここら辺で活動している人の話はまったく聞かないけれど。◯◯さんのところもおばあさんの介護で日中は動けないでしょ?誰のことを言っているのかしら」と呆れたようにため息をついたそうです。
そのお隣さんのお宅にも町内会長はやってきて、朝子さんのときと同じように活動の意思の確認をしていきました。
わざわざ家を訪ねて歩くことを、会長は「住民を把握したいので」と言っていたそうですが、「これも圧力に感じるよね」とふたりは話します。
それから数日後、公園の清掃をする日のことです。
朝から腰が痛かった朝子さんはパスをしてお隣の女性が向かったのですが、スマートフォンに電話をかけてきたと思ったら「あした、交差点に立つメンバーにあなたの名前があるわよ」と教えてくれました。
何のことかわからず朝子さんは混乱しますが、朝子さんが清掃に来ていないことに気づいた会長がお隣さんに声をかけ、「あした来るように伝えてください」と言われたとお隣さんは話しました。
朝子さん自身は何も知らされておらず勝手にメンバーに加えられた状態で、まずそのことに怒りを覚えたそうです。
「ボランティアが義務というのもおかしいし、当人の承諾なく一方的に参加を決めるなんて、横暴すぎるのでは」と思った朝子さんは、お隣さんに会長と通話を代わってもらうように頼みます。
「あしたは行けないし、勝手にメンバーに入れないでください」と怒りのまま強い口調で話す朝子さんに、会長は「地域のための活動なのに」とぶつぶつ言いながら謝罪もしない状態でした。
誰が主体の活動なのか
この話は、その場にいたほかの人たちも知るところとなり、「◯◯さんは長いことヘルニアをやっていて、普段の買い物が大変なときもあるのに」「体調の悪い人まで引っ張りだすのはおかしいのでは?」と会長に言う人が出てきたと後で朝子さんは教えてもらいます。
お隣さんもいまだと思い、「本人に言わないまま勝手にメンバーに加えるのは非常識では」と同調したそうです。
自分が責められる状況に、会長は「でも、地域のためですよ」と言い返していたそうですが、「できる人がすると決めたでしょう」という住民の一言で黙ったといいます。
「ボランティア活動って、したいと思う人が自主的に参加するものですよね。それを一方的に義務だと決めつけて、病気で動けない人間にまで強制するのは、もはや支配というか、会長は自分のことしか考えていないと思いましたね」
それまで、朝子さんは溝掃除など行けるときは参加しており、その姿を見ている人が多かったのも救いだったと思います。
町内会長の熱意は理解できるものの、自分のしたいことの実現に人を巻き込むのなら、賛成してもらえるような姿をまず自分で見せていくのが正解です。
誰のためであれ、ボランティア活動はそれをしたいとする人の好意で成り立つものであり、強制では前向きな気持ちが生まれるはずがありません。
朝子さんのケースでは、実際に活動に参加していたのは「みんな」ではなく数人の規模であり、実際の状態を見て「自分も」と手を挙げる人が増えている過程だったのではと思います。
そんななかで、リーダーである会長が持病を負った住民まで一方的に活動に引きずり込もうとしていることは、悪い影響しか及ぼしません。
それでも、賛同して実際に活動している人を知れば、朝子さんとお隣さんもみんなと一緒に交差点に立つ機会などを作り、自分なりにできる範囲で活動を続けています。
会長の思惑に関係なく、「できるときにする」をみんなで守りながら続けていくことで、本当の団結も生まれるのではないでしょうか。
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