優しさを知って大人になった私
サエ:初めてのアルバイトで、たぶん元々しっかりできてなかった挨拶や相手の目を見て話すとか、ごく当たり前のコミュニケーションから店長に教えてもらって。いうなれば非行少女が懐いたみたいなもんだよね。
深夜、親に家を追い出されて友だちも捕まらなくて、行き場がなくてフラフラしながらバイト先の近くを通ったら店長が気づいてくれて。
事務所でまかない食べさせてくれたんだけど、私のことぼんやり眺めながら「大変だったな」っていってくれて、それだけで泣きそうになった。多感〜!(笑)
レイ:特に話も聞かず?大人だわ。
サエ:親と上手くいってないとか、別に話した記憶はないんだよね。でも店長も大人だし、そういう雰囲気の子どもはわかるんだと思うよ。
私も大人になったいまだからこそ、自分と境遇が近いんだろうなと感じる子はわかるもん。
ミズ:そのとき、恋に落ちそうになったんですか?
サエ:そうだね。ほかのバイトの子は誰一人いなくて、もう店長も家に帰る時間なのにわざわざお店を開けてまかない食べさせてもらって、その時点で特別に気をかけてくれたんだっていうのは感じてた。不憫に思って…だろうけど。
まともな大人に親切にされて、柄にもなく「すみませんすみません」って謝りまくってたら、店長がポンポンって頭を軽く叩いて「大丈夫大丈夫」って。
子どもだから、もうその時点で「私のことこんなにわかってくれるなんて!」って好きになるしかないよね。(笑)
レイ:普段男性に頭ポンポンされたらイラっとするけど、やっぱりタイミングだよね〜。
サエ:そう、ほんとタイミング。触りたいからとか、好感度アップ狙いでしてくる頭ポンポンは、女性すぐ気付くと思うよ。逆に好感度激下がりだからね。
ミズ:頭ポンポンは女性のなかでも、結構好き嫌いわかれますよね。ちなみに、もうその時点でサエさんは店長を好きになってたんですか?
サエ:「なにこの人!好きかも…!」とはなったけど、店長が私の頭をポンポンした足で、事務所のドアを開けに行ったの。
事務所は裏通りに面していて、深夜でも人通りがあるから、外から中はのぞけば見える状態。
たぶん、わざとだよね。変なことにならないようにとか、落ち着いてというメッセージというか。それが大人の理性と優しさなんだなと思うよ。
あのとき自らドアを閉めに行っていたらどうなってたんだろう?でも多分手は出さないんだろうな。それでもいいからドアを閉めてみればよかった…って、いまでもふとした瞬間に考える。
恋まではいかないけど、わりと大切な恋に近い思い出として心のハードディスクに別名保存してあるね。(笑)
そんなかわいい恋にも満たない思い出を抱いて都会で揉まれた結果、いまは彼氏を監禁したいとかヒモにしたいという大人になったのよ。
レイ:この前サエちゃんとカラオケいったら、あいみょんの『貴方解剖純愛歌〜死ね〜』と椎名林檎の『シドと白昼夢』を熱唱していて、コイツは軸がブレない女だと思ったわ。
サエ:あいみょんに関してはこちとら『マリーゴールド』新規やないぞ!
黒田:(歌詞を読んで)あ〜…、なるほど。