「人に必要な情報」は「犬に不要な情報」?
では、スト―リーとは何かを考えてみましょう。「5W1H」という言葉、聞いたことありますか?5W1Hとは、「When:いつ」「Where:どこで」「Who:だれが」「What:何を」「Why:なぜ」「How:どのように」からなっていて、人間同士がつまり情報伝達のために必要な要素を示した言葉です。
さらに、「7W2H」もあります。7W2Hとは、5W1Hに「Which:どちら」「Whom:だれに」「How much:どのくらい」の2W1Hを加えたものです。
このように、人間同士の情報伝達というものはとても複雑ですよね。これらが何のために必要なのかを、考えたことありますか?
人間は時間の経過のなかに存在しています。「なぜこうなったか」という「起きた出来事」に対して、過去を遡り改善点を見つけ出したり、未来を予測して計画を立てたりすることができますよね?
時間の経過の線上に生きて、存在しているのが人間です。経過は時系列に並んでいて、そのときそのときに関わる人やらものやら、量やらという単位があり、それを測ることができる、計算できることができるので、おのずとこれらの情報が必要になってきます。
人間の概念を犬に当てはめないで
その点、犬や動物はどうでしょうか?セミナーやオンラインのセッションでも、私は説明したことがあるんですが、きちんと理解している人が少ないと思います。
犬や動物は「点」で生きているんです。人間のように「時間の経過」のなかにいるのではなく、「いま」を生きているわけです。時系列などの「単位」として、尺度を認識する能力はありません。
もっと簡単にいえば、犬の世界には数字や単位はありません。それらはあくまでも、人間が作った概念なんです。
勘違いしないでください。犬にも当然、「過去の出来事」はあります。「過去に経験したこと」でたとえば、痛い経験をした「爪切り」なんかは、ちゃんと覚えています。過去を忘れるわけではありません。きちんと「経験」として、脳に刻まれています。
でも、それが「動画」として残っているのではなく、「写真」として残っていると考えてください。
人間であれば、昨日起こった出来事、一昨日起こった出来事、1週間前に起きた出来事…など、時間の経緯をきちんと把握できるし、時間の概念がありますよね?犬や動物には、「昨日」とか「一昨日」とか「1週間前」という概念はありません。「過去に経験したことがあるかどうか」、その事実だけが記録として残っている。
だから、たとえば昔ほうきで殴られて叩かれていた犬は「ほうき」を見るだけで怯えたり、グルーミングで嫌な思いをした犬は、グルーマーに連れて行かれるとわかった時点でパニックになるんです。思い出すことは人間も、犬もできます。
人間には5W1H、あるいは7W2Hが言語としてあるように、複雑で高度なコミュニケーション力が必要ですが、人間の概念(時間や時間の経過、数字、量など)を必要としない犬にはこれらの5W1Hや7W2Hは必要ではありません。なのに!です。人間は人間の概念を犬に当てはめ、犬の意思の主張や、犬の認識を勝手に変換してしまっています。
多くの飼い主は、散歩中にすれ違う犬に吠えまくる自分の犬を「挨拶したがっている」とか「犬をみて喜んでいる」と解釈していたり、「お友だちがいないから寂しいでしょう?」と人間の概念というフィルターを通してしか犬を見ることができないのです。