大人になっても、闘いは続く
「うつ病ですね」と、小さなさびれた病院で、医師はあっさりとそう言い放った。
問診票と、それからいくつかの書類、血液検査の結果から鑑みて、まず間違いないだろうと。処方された薬を薬局で受け取ったあと、どうやって家路についたのか、ぼくは思い出すことができない。
ぼくはきっと、幸運だった。そのあとも幾度か身動きの取れない境遇に陥ったことはあるけれど、必ず差し伸べてくれる温かな手があった。ぼくのだらりと垂れ下がった腕をしっかりと掴んで、力ずくでも引っ張り上げてくれる人がいてくれたから。
「命の安全が保障された場所に移ると、フラッシュバックは起こりやすくなるんですよ」と、東京に戻ったのちに通い始めたクリニックのカウンセラーさん(臨床心理士さん)は言っていた。
虐待は「その場から逃げて終わり」というほど単純なものではない。逃げた先でも後遺症に苦しめられるし、親しんだ土地から離れることで孤独に精神を蝕まれてしまう場合もある。そうして大人になっても、親が死んでも、闘いは続く。
いったいいつまでこんな思いを抱え続けなければいけないんだろうと、いまもときどきやるせなくなる。現在、精神疾患はほぼ寛解(かんかい)状態にあるが、悪夢にうなされることはしょっちゅうだ。
それでも、夜中に叫び声を上げて飛び起きるぼくの頭を、撫でてくれる手がいまはある。愛しいその手はいつだってぼくをいつくしんでくれるから、ぼくは悪夢を見ようとも、安堵して再び眠りにつける。
かつて青あざだらけの体を小さく丸めて泣くしかできなかったぼくは、長い年月をかけて、闘う術としてこうやって記事を書き、発信できるようになった。ぼくを助けてくれた人たちのように、この記事がいま悩んでいる誰かのためになりますように。
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