自己紹介
「ねぇ、すごくよくない?私もいつかあそこまで金髪にしたいな」
林さんがコッソリ耳打ちをしてきて、「わかる」と同意の意味を込めて頷く。どうやら座った席的に隣のクラスらしい。後で勇気を出して声をかけてみようかと思う。
そう私が思ったとき、PTA役員を長く勤めているらしい女性が大きな声をあげた。
「みなさんお待たせしてすみません、もう少しで役員が入ってくると思うので、それまで自己紹介でもどうですか?そうですね、名前とクラスと、趣味とかどうでしょうか?あ、ちなみに私は4年1組学級委員長の岡田です」
そうですね、それがいいですね、とぽつぽつ声があがる。
そして順番に自己紹介が始まった。それぞれがあたりさわりのない趣味を話し、みんなが数問質問をする。「趣味と言えるかわかりませんが、アイドルの追っかけをしています」と話したお母さんには「私も」なんて同調する意見が上がった。
そしてついに、金髪ショートカットの女性の番になった。
「城崎めぐみ、4年2組の城崎梨々花の母親です。趣味はスケボーとギターで、休日はライブハウスによくいます。よろしくお願いしまーす!」
城崎さんはニッコリ笑ってお辞儀をする。そこに先ほど学級委員長だからと手を上げ、自己紹介を提案してきた岡田さんが質問をぶつけた。
「城崎さん、ずいぶん趣味が若いんですね、おいくつですか?」
「今年27になります」
「へぇ…じゃあ18のときにお子さんを産んだの?すごぉい。シングルマザー?」
「えっ?いえ、結婚してますけど」
「あ、そうなんだ。若くして結婚した人って大体離婚してるイメージで…ごめんなさいね。お仕事は?」
「えーっと、飲食店ですね」
「あぁ…キャバクラ?」
「いや、違いますけど」
「えっでも金髪じゃない。その髪型で働ける飲食店って…夜ぐらいでしょう?」
城崎さんの顔が少し歪む。私は林さんとそっと目を合わせ、空気感の不穏さを実感した。
「最近は、金髪でも働ける飲食店ってあるんですよ」
「えーそうなんだ…梨々花ちゃんはどうしてるの?たしか、ねぇ、ちょっとやんちゃな子ですよね」
城崎さんの問いかけるようなまなざしに、数人の母親たちが「はは」と笑う。
そんな子だっただろうかと記憶を探ってみる。子どもの話によると、城崎梨々花ちゃんは髪の毛を染めていてギャルっぽいが、正義感が強く弱い者いじめを許さない姉御肌で面倒見もよく、みんなを引っ張ってくれる頼もしいリーダーだったはず。
正義感の強さからついつい言葉がきつくなってしまうことはあるようだが、嫌味ったらしくやんちゃな子と言われるような子ではない。