主人公・町原明日香の隣の席には、婚活女子の小島由梨が座っている。彼女はきょうも、結婚相手探しに忙しい。
「売れ残りになりたくないから」と、同僚の明日香に仕事を押し付けて定時退社。
ある夜、由梨の仕事を押し付けられてしまったせいで、同窓会での出会いがなくなってしまった明日香。
そんな明日香の悲しみなど知らず、呑気にマウントをとる由梨。明日香の怒りはついに限界を迎えてしまう…。
第一話:「売れ残りおばさんの妬みでしょ」職場のアラサー婚活女子のありえない言動
第2話
- 登場人物
- 町原明日香:29歳。この物語の主人公
- 小島由梨:29歳。明日香の同期
- 葛城千鶴:39歳。明日香と由梨の上司
- 遠堂正明:由梨が婚活パーティで出会い、いい感じになっている男性
婚活相手の正体

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「珍しいじゃん、明日香から飲みに誘ってくれるなんて」
仕事帰り、明日香は由梨を飲みに連れ出した。由梨の好きそうな駅近くのダイニングバーをわざわざ予約した。
仕事の愚痴を聞いてほしいなんて名目だけでは断られる。だから明日香は「由梨の好きそうなお店がある」とも付け足した。
梅酒のソーダ割りに口をつける由梨は、ウーロン茶を飲みながらアヒージョを食べる明日香を鼻で笑う。
「お茶とアヒージョって合うの?相変わらずお酒飲めないんだぁ、もったいない」
「すぐ気分悪くなっちゃうんだよね。いいのいいの、接待で損するわけでもないし」
「そうなんだぁ。男は飲んでほろ酔いな女が好きだと思うんだけどなぁ」
「好きになってもらうために接待するわけじゃないからね」
「えー、せっかく女っていう最高の武器があるのにぃ?」
相変わらずの由梨のセリフにグッと目をつぶり、明日香はニコニコと由梨の話を聞き続ける。
きょうの本題は、由梨が婚活パーティーで連絡先を交換したという男性の写真を見せてもらうことだった。
どうにかしてその男性の素性を突き止め、由梨の本性を明かしたい。
人に残業を押し付けて婚活してるような女なんですよ、と言いたい。女捨てているなんて言って同僚を見下し、謎のブルべマウントを取ってくる女なんですよと。とにかく言いたかった。
「ねぇ、由梨の婚活相手ってどんな人?もうデートしたの?」
「うん、2回くらいしたよぉ。次あたり告白されるんじゃないかな?外資系に務めててね、趣味はフットボール。めっちゃイケメンで身長も高くて…この人!」
由梨はスマホの画面を明日香に突きつけてくる。
明日香は画面に移された男性の顔を見て、思わず声をあげそうになった。
爽やかな短髪、通った鼻筋、切れ長だがパッチリとした目、スマートな輪郭。最近、この人に会ったことがある。
「30歳だから私たちの1つ年上なんだよね。彼女いないの?って聞いたら、激務すぎて数年前に別れちゃったきりできないんだって。結構スキンシップに弱いんだよね、この前飲んだ帰りにちょっと腕組んだら顔真っ赤にしてたの!秒で落とせんじゃんと思って」
由梨は笑いながらスマホをバッグにしまった。
「しかもね、彼は仕事熱心でできる女系の人が好きっぽいの。だからバリキャリで、先日も大きな商談を一個成功させて、残業はしない主義の、超かっこいい女子演じてる。プライベートでは甘えさせてください的な?」
この話をその男性が聞いたらどうなるんだろう、一瞬で振られるんだろうなと明日香は思った。
そして、告げ口しちゃおうかなと不穏な考えが頭をよぎる。
由梨が見せてくれた男性は遠堂正明。先日由梨の不手際が原因で怒りの連絡をしてきて、明日香が代わりに謝罪に行った会社の社員だ。
明日香がクマを作ってまで作り直した資料を見て、「前の担当よりあなたの方が話が通じそうだ」と言ってきた人の、部下。
遠堂自身が担当してくれているわけではないが、サポートとして入ってくれているらしい。
前この取引を担当していた由梨はそのことを知らない。大して営業先に足を運ばず、顔も合わせなかったからだ。