動き始めた、復讐計画
次の日から明日香は、由梨への復讐のために黙って残業をこなし続けた。
いい感じの彼がいるのにも関わらず婚活パーティーの予定を入れ続ける由梨を尻目に、明日香は文句も言わずにパソコンに向かった。
遠堂の会社にも頻繁に足を運んだ。新しい担当になったからというのもあるが、できる限り自分への信頼を強くするためだった。
遠堂と顔を合わせることは少なかったが、それでも社内で「熱心で信頼できる人」「丁寧な担当さん」という印象はどんどん上がっていったので、自然と遠堂の耳にも明日香の評判は入っていく。
「町原さんのおかげでいいものが作れそうです、助かりました」
ようやくまとまった資料のスライドを見つめるのは、遠堂の上司である郡山。
30代後半といったところか。中肉中背で、お世辞にもイケメンとは言えないが、真面目で丁寧に対応してくれるので好意が持てる。
言いづらいこともしっかり話してくれるので、明日香からすれば仕事がしやすかった。ハッキリ指摘してくれた方がうまくいくことは多々ある。
「こちらこそ、郡山さんにはたくさんのご迷惑をおかけしました。本当にありがとうございます」
「いえいえ、町原さんが謝ることじゃないんですよ。なんていうか、前の担当の女の子?名前も覚えてないけどあの子がね、うちとは相性悪かったのかな」
明日香は由梨の顔を思い浮かべる。
「うちの社員が、本当に申し訳ございません」
「ううん。いろんな人がいるしさ、町原さんの責任じゃないでしょ。あの子はいま30歳くらいかな?そう見えたんだけど、あの年齢であんな雑さだったら、もう教育云々じゃなくってあれだよね、本人のやる気が本当にないんだろうね」
明日香は頷くしかなかった。
郡山はそれ以上由梨の話をしなかったが、心底「担当が変わってよかった」と思っているのは伝わってきた。
「これからまたいろいろ相談し合うことはあると思うけど、町原さんは信用してますから、よろしく頼みますね」
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
このまま関係を深めて、いつか言うのだ。あの女の名前を遠堂の耳にいれるのだ。彼女が残業をしていないのは明日香のおかげだと。