ある日同窓会に足を運んだ主人公の真琴は、高校時代の元カレ・悟と再会する。
受験をきっかけに別れてしまった2人だったが、悟の思いはまだ冷めておらず、悟は告白。しかし真琴はそれを拒否した。
すると、次の日の朝真琴の家の前に悟が現れて…。続いていく悟の奇行に、じわりじわりと真琴の生活が追い詰められていく。
「離婚しないと、子どもがどうなっても知りませんから」
悟に衝撃的な言葉をかけられた真琴夫婦。家族の平和を守るべく、2人が下した決断とは?事件の真実が明らかになる最終話。
第1話:同窓会で再会した元カレの異変。「誘い」を断った人妻を襲った異常な行動
第2話:執着心が強い元カレと同窓会で再会。一家を震撼させた男の「異常な行動」
第3話
- 登場人物
- 真琴:この物語の主人公
- 奈央:真琴の高校時代からの友人
- 沙也加:真琴の高校時代からの友人
- 梓:7歳になったばかりの真琴の娘
- 和明:真琴の夫
- 悟:真琴が高校時代に付き合っていた元カレ。同窓会で偶然再会する
離婚届
「それじゃあ、早く判を押してくれますか」
ファミレスのテーブルの向こう側にいる悟は、付き合っていたころと同じように爽やかな笑顔で、それでいて瞳の奥に得体のしれない何かがいるようだった。
悟の電話を受けた後、和明は「折り返すから電話番号を教えてくれ」と言って電話を切った。
そして私のバッグのなかから、小さな盗聴器を発見し、粉々に砕いて「これで全部盗聴されてたんだよ」と言った。
だから、タイミングよく電話をかけてきたのだ。だから、AIに学習させるための私の音声もたっぷり集められたのだ。娘が梓という名前なのも、わかっていたのか。
いつ盗聴器を仕掛けられたのかは、同窓会のときしか考えられなかった。
そして、あのとき誰が私のバッグを持ってきてくれたのだろうかと思い出す。奈央と沙也加だ。あの2人が入れた?いや、そんなはずはない。ないと信じたい。
でも私の家の住所も、和明の会社も、誰が教えたの?SNSなんてやってないのに、私の電話番号だって、誰が教えたの?
友人が悟の協力者かもしれないと考えて、そこで再び目の前の離婚届に視線を戻す。
「早く」
あとは私が判を押すだけだった。離婚届に記入した情報をひとつずつ確認し、間違いがないのを確認して判を押す。
まさか人生で、緑の紙に名前を書くことになるとは思っていなかった。
「ありがとう。これであとは、100日後に俺と真琴の婚姻届けを出すだけだね」
ニヤニヤしながら離婚届けを見つめる悟に、殴りかかってしまいそうになる。
盗聴器を仕掛けられていたと警察に相談したものの、警察は「何かあったら教えてください」というだけで特に何の行動もしてくれなかった。
実害がないと動かないらしい。子どもを使って脅迫し、離婚届けを書かせるだけでも十分実害じゃないか。
「お言葉ですが、妻はあなたのこと愛していませんよ。そんな愛のない結婚でもいいんですか」
和明の静かな声には、怒りがにじんでいる。
「これから愛してくれればいいので。俺は、高校時代からずっと真琴のことが好きなんです。彼女のことを誰よりも愛している。彼女を幸せにできるのは俺だけ。だって彼女のことを細胞レベルで愛してあげられますからね。あなたごときじゃ俺の足元にも及ばないんですよ。さぁ、真琴、一緒に区役所に出しに行こう」
悟は立ち上がり、強引に私の腕をつかんでくる。
「やめて!」
店内に響くほどの大きな声が出てしまった。でも、そうするしかなかった。
「家に帰って荷物、片づけなくちゃいけないから」
「…そう」
ファミレスの店内だったからだろうか、悟は「仕方ないね」とやけに素直に納得する。
「終わったら迎えに行くから、それまでに片づけておいてね」
ニヤニヤ笑って、嬉しそうに離婚届けを手にファミレスを出ていく悟の背中を見て、私も和明も怒りがピークに達していた。
「行こう、真琴。早く準備しないと」
「うん」
本当に大丈夫だろうかと、少しだけ不安になりながら、私は和明と共に自宅へ急いだ。