ある日同窓会に足を運んだ主人公の真琴は、高校時代の元カレ・悟と再会する。
受験をきっかけに別れてしまった2人だったが、悟の思いはまだ冷めておらず、悟は告白。しかし真琴はそれを拒否した。
すると、次の日の朝真琴の家の前に悟が現れて…。続いていく悟の奇行に、じわりじわりと真琴の生活が追い詰められていく。
第1話:同窓会で再会した元カレの異変。「誘い」を断った人妻を襲った異常な行動
第2話
- 登場人物
- 真琴:この物語の主人公
- 奈央:真琴の高校時代からの友人
- 沙也加:真琴の高校時代からの友人
- 梓:7歳になったばかりの真琴の娘
- 和明:真琴の夫
- 悟:真琴が高校時代に付き合っていた元カレ。同窓会で偶然再会する
歓迎されない来訪者
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道路の向こうにいる悟に気づいた瞬間、体中から汗が噴き出てきた。
私、家なんて教えてない。何で知ってるの、どうしてここにいるの?たまたま?たまたまここに来たの?
そうだったとしたら、どうして悟は、私をじっと見て笑っているんだろう。
ごみ袋を手に持ったまま急いでUターンし、震える手でエプロンのポケットを探る。早くオートロックの鍵をあけなければ。
焦れば焦るほど手が震え、鍵が出てこない。ようやく手にした鍵も、鍵穴にうまく刺さらない。
ようやく入った、と思った次の瞬間、左肩をとん、と叩かれた。
「真琴」
昨日聞いたばかりの声。10年前、隣の席の男子に教科書を貸したことに腹を立て、私に手を挙げる前の声。忘れもしない元カレの声。
ゆっくり振り向くと、息を切らした悟がそこに立っている。なんでここにいるの、と声に出したいのに、何も出てこなかった。
「ごめん、急にきて」
申し訳なさそうに笑う悟の顔を見て、悪寒が走る。
「どうしてもお前が忘れられないんだよ」
「私は、もう興味ない」
「これから興味持ってくれよ」
「無理」
悟の手を肩から払い落とし、もう一度自動ドアの鍵を開けようとする。
でも、ここで鍵を開けて部屋までついてこられたら?部屋の番号がバレて、娘に危害が加わったら?
ゴミ出しに行くだけだからと、スマホも部屋に置いてきた。時刻は6:45。ゴミ出しや出勤で外に出る住人を見て、悟が驚いて出ていくのを待つしかない。
どうしようかと思念しているうちに、自動ドアが開いた。
「真琴、どうしたの」
出てきたのは和明だった。和明は悟の顔と、青ざめた私の顔を見比べて、すぐにただ事ではないと気づく。
「うちの妻に何か用ですか」
和明は私と悟の間に割って入り、普段は聞かない強い口調と低い声色で、自分よりも頭一つ分ほど小さな慎重の悟に圧をかけた。
「あー、旦那さんですか」
「ええ、どんなご用件で?」
「いやいや、用件っていうか、たまたま知り合いに会えたから挨拶してただけですよ」
挨拶していた、なんて様子ではないだろう。和明は、後ろで震えが止まらずにいる私の手をぎゅっとつかんだ。
「すみませんね、勘違いさせちゃって。なんも、俺は怪しい者じゃないんで。真琴、またな」
へへっと笑い、悟はそのままマンションから去っていく。
またな、なんて言わないで。もう二度と現れないで。
悟の姿が見えなくなってから、和明はようやく私のほうを振り向いた。
「昨日話してた元カレって、あいつ?」
「…うん。家教えてないんだけどな」
「尾行されてたか、人に聞いたか…。いずれにせよしばらく気をつけないとな」
「ごめん、迷惑かけて」
「真琴は何にも悪くないだろ、ほら。早く戻ろう。梓が待ってる」
悟はきっとまた来る。昨日あれだけはっきり断ったのに、家の前で待ち伏せまでしていたのだ。こんなことで諦めるような男ではない。どうしてそんなに私に執着するのかはわからないけれど。
予想とは裏腹に、その後悟が家までやってくることはなかった。
だから、私も和明も、悟のことなんてすっかり頭から抜け落ちてしまっていた。