娘・凜花がSNSにアップロードしたダンス動画がバズった。
これで一躍有名人になれるかもしれない、そんな期待を描いた母娘だったが、2人のもとに訪れたのは、粘着質なコメントをよこすファンだった。
- ※この記事にはセンシティブな記述・表現が含まれています。
第1話
- 登場人物
- 美奈子:この物語の主人公
- 凜花:中学2年生。美奈子の娘
- 聡志:中学1年生。美奈子の息子
- 光一:凜花の彼氏
はじまり
ー○○さんがいいねしましたー
ー○○さんがコメントしましたー
止まらない通知は、うれしいことのはずなのに、少し不安になった。
さっきまでしん、としていたリビングに、いまはスマホの通知音が響いている。
美奈子は、中学2年生になる娘・凜花のスマホに送られてくるSNSからの通知をじっと見つめた。
「ママ、これバズってるって言うんだよ」
凜花は興奮したような顔で、スマホを美奈子に見せてくる。
「すごいじゃん凜花、ママもシェアしとかなくちゃ。もっとバズって有名人になったりして」
「えーっ、そうなったらどうしよう?ママ、マネージャーになってくれる?」
有名人というワードに反応したのか、凜花はソファーのうえで身体を跳ねさせた。
凜花がダンス動画の投稿にハマり始めたのは、ダンス教室の先輩の影響だった。
上げたらコメントがつく、いいねしてもらえる、注目される、有名になれるかもしれない。
そんな先輩の言葉をきっかけに、凜花はSNS投稿を始めた。
「ママもアカウントフォローして」と、スマホを見せてきた凜花の嬉しい顔を、美奈子はいまでも忘れることができない。
さっそく投稿した先輩とのダンス動画に「かっこいい!」とコメントがついたのだという。
美奈子自身もSNSをやっていて、フォロワーもそこそこいるほうだった。
最初は凜花の成長をアップロードする育児アカウントだったが、そのうち趣味の裁縫も投稿するようになると、少しずつ関わりを持つ人が増えていった。だから、SNSで反応をもらえる喜びは十分わかっていた。
今回凜花が投稿したのは、流行りの音楽に合わせて、得意のHIP-HOPダンスを合わせたもの。自分で考えた振り付けが「かわいい」「おしゃれ」と評判になったらしい。
ダンススクールの先輩たちが手拍子してくれている音や、オシャレにライトアップされたダンス教室など、かわいい以外にも惹かれる要素がたくさんあったのだろう。
「この勢いでどんどん動画アップしたら、もっと有名になれちゃうのかな」
そういってスマホを見つめる凜花を、美奈子は少し複雑な気持ちで見ていた。娘がどこか遠くに行ってしまうような、そんな気持ちになりながら。