主人公・町原明日香の隣の席には、婚活女子の小島由梨が座っている。彼女はきょうも、結婚相手探しに忙しい。
「売れ残りになりたくないから」と、同僚の明日香に仕事を押し付けて定時退社。
由梨のある身勝手なお願いで、せっかく築き上げてきた取引先との信頼を地の底まで落とされた明日香。
しかし明日香はこのピンチを、由梨に復讐する絶好のチャンスだと感じていた。他人任せな婚活女子に訪れる結末とは…。
第1話:「売れ残りおばさんの妬みでしょ」職場のアラサー婚活女子のありえない言動
第2話:「サボって取引先を「横取り」する婚活女子。激怒した同僚の”凄まじい復讐計画”」
第3話
- 登場人物
- 町原明日香:29歳。この物語の主人公
- 小島由梨:29歳。明日香の同期
- 葛城千鶴:39歳。明日香と由梨の上司
- 郡山大輔:由梨が明日香に押し付けた取引相手
- 遠堂正明:郡山の部下。由梨が婚活パーティで出会い、いい感じになっている
暴露

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郡山の会社への謝罪に、今回は由梨もついていく羽目になった。一応新しい担当である。顔を合わせて挨拶しないわけにはいかない。
「マジ最悪。なんで私も行かなきゃいけないの?」
お手洗いでメイクを直しながら、由梨がぶつぶつと文句を言っていた。明日香は隣で手を洗いながら由梨の話に耳を傾ける。
「この間見せた婚活相手わかる?彼ね、この会社で働いてるんだって。超嫌だ、うっかり会っちゃったらどうしよう」
「でも由梨が謝罪しに来るとか知らないんでしょ?」
「うん。万が一同じ部署だったとしても、私小島って苗字しか伝えてないもん。小島なんて結構そこら辺にいるでしょ?あー最悪。彼がいるからこの業務私に譲ってもらおうと思ってたのにー」
「え、そうなの?」
「うん。彼に直接私の仕事できるとこと見せられるじゃん?」
想像以上の甘い考えに、明日香は思わず絶句した。
そんな理由で、会社同士の重要な契約をめちゃくちゃにされていたのか。ここまでの努力を水の泡にされそうになっていたのか。
煮えくり返るはらわたを何とか抑えながら、明日香は課長と由梨とともに郡山と遠堂のいる会社へと向かった。
「この度は大変申し訳ございませんでした」
頭を下げる課長の横で、明日香も共に頭を下げる。由梨もめんどくさそうに頭を下げ、誰よりも早く顔を上げた。
「謝罪はもういいんですよ、町原さんと話がしたいんです。町原さん、今回の担当変更の経緯を教えていただけますか」
「それはですね」
「私は町原さんに聞いているんです」
明日香の代わりに声をあげた課長は、郡山にすぐに止められた。
「郡山さん。私を信じてお任せしてくださったのに本当に申し訳ございません。正直に情報を報告しますと、私もよくわからないのです。ある朝突然担当から外され、小島が担当になっていました」
明日香は課長の隣に座る由梨のほうを向く。
由梨の目の前には、婚活相手の遠堂が座っていた。遠堂は由梨の顔をじっと見つめ、ひどくあきれ返った顔をしている。
「何度も上司が課長に掛け合ってくれましたが、担当を戻すとは話してくれませんでした」
「そ、それは君が忙しいというから、その配慮で…」
「課長、私は忙しいと口にしたことはありません。配慮を頼んだ覚えもありません。前回の担当者でもあった小島の失敗を埋めようと誠心誠意郡山さまたちと向き合い、丁寧に対応しようとしていただけです。それを忙しいと思ったことはありません」
「町原さん、デタラメなことは…」
「デタラメというなら、わが社のほかの社員にも聞いてみましょうか」
ピシャリと告げると、課長もついに黙る。
「前回の担当者…?町原さんの前の担当者は小島さん、あなたでしたか。そういえば見たことのある名前だと思いました」
郡山は由梨のほうを見て小さくため息をつく。その言葉に続いたのは遠堂だった。
「町原さんに担当を戻していただけないのなら、この契約はなしにします。小島さんは挽回しようと思っていたのかもしれませんが、これはそんな生ぬるい覚悟に付き合っていられるような安い企画ではありません」
遠堂は冷たい声で呟き、課長の顔をじっと見つめた。由梨の顔は一切見なかった。