偏見まみれの母親
「梨々花がご迷惑おかけしていましたか?すみません」
「いやいや、そんなご迷惑だなんて感じじゃないんだけどね、お母さん若いから大変なのかなって。梨々花ちゃん寂しくて、やんちゃしちゃうのかなってね。ほら、あのー…一度暴力事件あったわよね?」
そんなものはない。心当たりがあるとすれば、下級生にぶつかって謝らなかった上級生に向かって、梨々花ちゃんがタックルしたことだろうか。
でもあれは上級生が悪く、怪我をした下級生の子はそれから梨々花ちゃんに懐いて一緒に登下校しているはずだ。
「なんかね、困ってることがあれば頼って。私たち結構年齢的にも先輩だから、ねぇ、頼ってもらって構わないし」
「結構です」
「え?」
「結構です、と言いました。あなた方のような嫌味ったらしい人に手伝ってもらいたいとは思いません」
城崎さんは立ち上がって、真っすぐ岡田さんを見つめる。
「若いからですか?金髪だからですか?ピアスがたくさん空いているからですか?羨ましくて嫉妬してるんですか?私のこと、見下してるんですか?」
「…そんなこと一言も」
「じゃあ失礼なので、言い方気を付けた方がいいですよ。あなた方みたいな人がいるから、みんなPTAやりたがらないんだと思います。もうここのPTAに協力したいとは思えないんで、後は皆さんで何とかしてください。困ってることがあれば頼っていいんですよね?PTAに参加したくないという理由で困ってるんで、なんとかしてください」
城崎さんはそのままスッと立ち上がって、バッグを持って会議室を出て行く。
ちょうど次の番だった人と、私と、林さんと、ほかにもたくさんの人は、目を丸くして岡田さんを見つめていた。
そうこうしているうちに会議室にPTA会長らしき人が入ってきたので、自己紹介は中途半端なところで終わってしまう。
PTA会長はベリーショートヘアで、40代後半くらいの女性だった。スッキリ刈りあがったサイドがかっこいい。
そして結局城崎さんはその後戻ってくることはなく、岡田さんは終始ひきつった顔で、周囲の保護者と「イライラするわね」なんて話していた。
帰り際岡田さんに、私と林さんは話しかけられる。
「こんにちは、さっきは自己紹介の時間なくなっちゃってすみませんね。ぜひ次回…ってあら、髪の毛どうなってるの?真っ赤じゃない」
岡田さんは私の髪の毛の内側を指さす。
「え、ええ…インナーカラーって言って、ちょっとやってみたくて」
「へぇ。おしゃれね!それくらいさりげない染め方なら可愛いんだけど、子どもの親なんだから、金髪はちょっと若すぎるわよねぇ」
「それはとんでもない偏見ですね」
はは、と私と林さんが笑っていると、後ろから自己紹介を済ませていなかった保護者が一人声をかけてくる。バケットハットを深くかぶった保護者だった。
「髪の毛なんてみんな自由でいいと思いますけど。染めてたら親になれないんですか?」
彼女はバケットハットをさっととる。なかからは派手な髪色のロングヘアが出てきて、会議室にまぶしく輝いた。
「まぁ、素敵!私も今度その色にしようとしていたのよ。カラーシャンプーは何使ってらっしゃるの?」
資料を片付けていたPTA会長の女性が彼女に声をかける。
岡田さんは気まずそうにうつむいて、さっさと部屋を出て行った。何もできなかったけれど、私と林さんは妙にスッキリとした気持ちで会議室を後にした。
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