「やっぱり海外には行かない」
でも渡航まで3カ月に迫ったころ、彼に変化が…。取引先に詐欺容疑が発覚し、それに伴い彼の会社にも監査が入ることに。監査だけではなく、彼自身の潔白を証明するために取り調べを受けるなど、かなりストレスのかかる出来事が起きました。
イレギュラーな対応で疲労困憊した彼が考えたついた答えは、現事業の見直しと、さらなるアクセルの踏み込み。「やっぱり俺、海外には行かずに、いまの事業の成長にフォーカスすることにした」少し元気なく微笑みながらそういう彼。
キラキラとした将来と、新たな挑戦を諦めて堅実な道を選択した現実に直面しながらも、「お前は行けよ、海外。ずっと夢だったんでしょ?」とやさしく気持ちを汲んでくれました。
思わぬハプニングに陥った最中でさえも、人の夢や願望に寄り添える彼の包容力に、私は甘えてしまったのです。
「お前とは結婚できない」
その日は前々から約束していた隅田川花火大会の開催日。東京の夏を代表するこのイべントは、私たちの初デートの地でもありました。
いまにも泣き出しそうな雲を尻目に花火大会が無事に開催されること願って、「15時に待ち合わせて、それから一緒に現地に向かおうね!」とテキストを打つと、ちょっと浮き足立ってデートの準備を始めました。
「ちょっとカフェに入らない?」合流して開口一番の彼の言葉。「そんなモタモタしてたら場所取りができなくなっちゃうけどな…」と思いつつ、分煙はされてはいるものの、大人を感じさせるコーヒーとタバコの香りが混じった喫茶店に腰を降ろします。
蒸し暑さを忘れさせるような、キンキンに冷えたグラスに入ったカフェラテが喉を潤したそのとき、「これからのふたりの未来を考えたんだけど…」と彼が静かに会話を始めました。
目が死んでいる、完全に嫌な予感…。
「お互いこれから別の道を行くわけで、物理的な距離も生じてくる。留学に行く前に結婚するか別れるか、判断したいと思って、この1ヶ月俺らの関係について考えたんだけど…ごめん、お前とは結婚できない。別れよう」
突然の別れを宣告され、頭は真っ白。「えーっと、何が嫌だったの?」整理がまだついていない脳みそからポロリと出た言葉でした。
「いや、何が嫌とかダメとかではなくて…うまく説明できないんだけど…」なんだか煮えつかない彼の回答と、この気まずい空気にしびれを切らしてしまい、「もう別れたいという決意は絶対なの?」と逆に追い打ちをかけてしまいました。