まあまあな人生
やりたかった仕事に就けたことは嬉しかったが、もちろん、入社して終わりではない。会社という場所である程度活躍できる位置にまで行くのは、まあ大変だ。神経も使うし、それなりに緊張感もある。
会社組織というのはときに予想を超えるほど理不尽なことも起きるものだし、仕事をしていれば、震えるほど腹が立つことだって起きる。不遇な時期が長く続くことだってある。
真依子にも、これまでいろんなことがあった。若手のときにミスをして老舗文房具店の店長から激昂され、上司と謝りに行ったこと。深夜までつくった販促案を、速攻でダメ出しされて作り直しになったこと。ある店舗でフェアをやることになりさんざん準備した挙句、先方の都合でなしになってしまったこと。途方に暮れたこともたくさんあった。
人間関係だって、たくさん人がいればもちろん自分の思い通りにはいかない。モチベーションが低く覚えも悪い部下に内心イライラしたり、真依子をあまりよく思っていない先輩から遠回しに批判されるのを聞くたび胃が痛んだり、他部署同士のうっすらとした派閥とか、げんなりすることもちょくちょくある。いまは主任という立場的に、上司や部下の板挟みのプレッシャーも大きい。
それでもやっぱり、自分の提案で大きな金額を受注できたときだとか、部下が成果をあげられるようになったりだとか、真依子の部署が表彰されたりだとか、そういうときは本当にうれしい。休みの日に買い物に行ったときだって、店に自社商品が展開されているのを見れば、自分たちの努力が少しでも報われた気がして、高揚感がある。
「お待たせしました、鮮魚盛り合わせです」
真依子たちの目の前にどん、と置かれた皿の上には、中トロやほたて、いくらなどが豪快に盛られていて、真依子と早希は思わず歓声をあげた。おいしそうなものを見ると、自分が抱えている悩みが一瞬どうでもよくなる。そしてそれは、すごく健全だと思う。
「まぁ、私は真依子の味方だから。いい出会いがあるように、願ってるよ。きょうは飲もう」
真依子は、早希と2回目の乾杯をした。