みなさんこんにちは。露木行政書士事務所の露木幸彦です。
日本では、2020年から続いている新型コロナウイルスとの戦い。一度は落ち着きを見せたかのように思えましたが、変異株の流行により、まだまだ出口が見えません。
そこで問題になるのは「ジ・コロナ(時効コロナ)」。何もしなければ時効が成立し、請求権が消滅し、正直者が馬鹿を見る可能性があるのです。
コロナ禍で注目されるのは、各種支払を猶予された側ばかり。一方、猶予する側はいままで盲点でした。
「ジ・コロナ」対策になり得るのが、法改正。新設された「時効の完成猶予(147条1)」「時効の更新(147条2)」を活用しましょう。
今回取り上げるのは兄妹間の相続分、ダブル不倫の慰謝料、親戚間の借用、ネイルサロンの家賃という4つのケース。いずれも時効を延長すれば防げるトラブルです。筆者が新制度を使い、どのように解決したのかを具体的に紹介しましょう。※登場人物はすべて仮名です。
Case1.兄妹間の相続分
「近くの嫁より遠くの娘がかわいいなんてひどすぎます!」と嘆くのは光江さん(58歳)。トラブルの発端は、義母(82歳)の不義理でした。
光江さんは、2年間義母の介護に奔走。特に床にはいつくばって義母の尿を拭くのは屈辱的で、当時の光江さんは心療内科で適用障害の診断を受けてしまうほど心身ともに疲れ切っていました。
そして2年前に義母が逝去。後日、夫の妹・佳子(50歳)から届いた公正証書遺言のコピーが届きました。
義妹が顔を出していたのはせいぜい3カ月に1回程度でしたが、遺言書には「佳子に全財産を譲る」と書かれていました。
ところで、夫は義母の直系尊属なので遺留分(どんな遺言を作成しても残る相続分)が認められており、今回の場合、遺産全体の4分の1を受けとれます。
妹いわく、遺産の合計は4千万円。実家の土地、建物は接骨院に賃貸中で、当時の評価額は1千万円。それ以外の預貯金が3千万円という内訳です。
10割ほしい妹と、10割渡したくない兄(夫)。1千万円をめぐる争いは、家庭裁判所の調停に発展しました。
逝去から1年。「訴訟でも認められないよ」という調停員の叱責で、義妹は観念。具体的には「妹が不動産を売却し、兄へ1千万円を支払うことを条件に、ほかの遺産を妹へ名義変更できる」というものでした。
しかし、調停から10カ月。登記簿によると、未だに売却が未完了。
当初、接骨院が1千万円で買い取る予定だったのですが、新型コロナウイルスの発生で計画が頓挫。施術で密になる接骨院は利用者が減少し、800万円へ値下げしてほしいとお願いしてきたのです。
しかし義妹には手持ち資金がなく、残りの200万円を補填できませんでした。
再度の請求で時効が半年延長!
「このまま払わないんじゃ!」と焦る光江さん。遺留分の時効は、相続開始から1年間(1042条)。今回の場合、調停成立が該当するので、残された時間は2カ月程度。まだまだ続くコロナの影響下で、接骨院の売上回復は難しい状況です。
そんな絶体絶命の光江さんを救ったのが今回の法改正。相手方に催告すれば、時効を6カ月間延長できるようになったのです(150条)。
そこで筆者は光江さんの依頼を受け、内容証明郵便を作成。義妹が受け取ったので、一安心。光江さんは接骨院がまた「元値で」と言い出すまでの猶予を得たのです。