招かれざる客
緑あざやかなガーデンを、新郎である太郎と共に歩いていく。
「太郎ちゃん、めっちゃいい天気。最高だね」
「ほんとだね、由紀のドレスが濡れなくてよかったよ」
小声で私の耳元に囁いてくる太郎を見て、カメラマンが勢いよくシャッターを切る。
「いまの撮られてたよ?」
「ちょっとラブラブっぽかったしょ。俺、狙ったの」
太郎の顔を見て私も笑う。参列者の笑顔に囲まれる。ああ、なんて幸せなんだろう。
どうしても上がってしまう口角をほったらかしにしていても、きょうは大丈夫。きょうは、ひたすらに笑っていてもいい日。誰よりも幸せになれる日。
そう思って参列者席を見渡したとき、オフホワイトのワンピースを着ている知らない女性が参列していることに気づいた。
なんて非常識な、とギョッとすると太郎も彼女を見たらしい。先ほどの笑顔が一瞬で真顔になる。
しかし、結婚式中である。これから誓いを立てるのに、あの女は誰なんだと話し合うこともできない。
結局太郎にその女の正体を聞けたのは、食事の最中だった。
「ごめん…俺は招待してないんだけど、元カノだわ」
「は?」
「俺の大学の先輩の利樹くんが、彼女も連れていきたいって言ってて…まぁ人は多い方がいいかなと思って、OKしてたの」
「うん」
「利樹くんの彼女の名前で聞いてたんだけど、彼女じゃなくて元カノが来てた」
「なんで?その先輩、何考えてんの?」
「おもしろいと思ったらしいよ…」
元カノがまさか白いドレスを着てくるとは思ってもおらず、先輩も青ざめたらしい。テーブルで縮こまりながら食事をする利樹先輩の姿が、視界の隅に入ってきた。
太郎の元カノのことは私も知っていた。
大学時代に半年だけ付き合ったものの嫉妬と束縛が激しく、太郎のスマホに入っていた異性の連絡先をすべて消し、親との連絡まで遮断。バイト先にも女性がいるとわかれば、乗り込んで暴れ散らして辞めさせたとか。
付き合う前までは優しくおしとやかな印象の強い女性で、同級生の間では可愛いと話題だった。そんな彼女から告白してきて、恋愛経験の少なかった太郎は半分浮かれながらOKしたらしい。結局、後悔して逃げるように別れたそうだが。