最後まで最悪な結婚式
「父さん飲みすぎだよ、父さんもロビーで休んだ方がいいよ」
太郎が立ち上がって義父に声をかける。
「仕方ないだろう!天気がよくて、外で酒が飲めて、息子と可愛いお嫁さんが見れて、こ~んな最高な日に飲まなくてどうするんだよ!」
義父が大声で笑いながら話しているが、私の気持ちはまったく晴れない。招待客の気まずそうな顔がちらちらと視界に入る。
結局元カノと義父は2人ともロビーに運ばれ、椅子でぐっすり眠ってしまった。
みんな「ドラマみたいな事件だったね!これで厄落としできたよ、結婚生活は安泰だ!」なんて励ましてくれるが、結婚式に事件なんて起きなくていい。
まさかの事態に、私のテンションはがた落ちだった。ああ、元カノさえ来なければ。憎らしい感情がぐるぐると頭を巡っていく。
「まぁ、最後のDVDがあるしさ!」
「そうそう!綺麗に締めくくろうよ!二次会もあるんだし!」
「うーん…そうだね」
ガーデンにスクリーンを持ち込み、スタッフがDVDを映し出す。
ブライズメイドたちに感謝を伝えようと、DVDには準備段階からの映像を編集したサプライズムービーを用意していた。家族に向けた手紙も入っている。こっそり、太郎へのラブレターも仕込んだ。
しかし、待てど暮らせどDVDは流れない。
「機械の調子、悪いですか?」
「いえ…機械は大丈夫なんですが…」
私が声をかけると、スタッフが気まずそうにDVDを見せてくる。
「傷が入ってしまっているようです」
結局気合いを込めたDVDを誰に見せることもできず、式はグダグダのまま終わった。
後から聞いた話によると、裏に連れて行かれた元カノが暴れ、スタッフが準備していたDVDを床に叩きつけたらしい。ケースには入っていたものの、なかで傷がついてしまったようだ。
ハプニングだらけの結婚式。逆に二度と忘れられない思い出になるよ、数年後には笑えるはずとブライズメイドたちが励ましてくれたが、私にとっては「一生思い出したくない最低な思い出」になってしまったのだった。
その後太郎は元カノを招待するきっかけになった先輩から、これでもかというくらい謝られたらしい。
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