3人の生活がスタート
同居がはじまったのは中古の一戸建て。姑の病院にも車で行きやすく、私たちも職場に行きやすい、ちょうどいい場所。
夫婦共働きで子どもはいないとはいえ、姑にすべてを任せきりにするわけにはいかない。「家事は任せてくれていいんだよ」と姑が提案してくれたものの、常備菜や作り置きを用意したり、休日や帰宅後の掃除を積極的に行ったりと家事は分担した。
すべてが順調な同居生活のはずだった。
「ただいまー」
引っ越してからおよそ2週間。仕事を終えて帰宅すると、キッチンから姑の声。
「お義母さん、ただいま帰りまし…た…。え?」
そこにはゴミ箱におかずを捨てている姑がいた。
「ちょ、ちょっと。何してるんですか…?」
そのおかずは、私が昨日作り置きしたものばかり。
「ああ、さつきさん。おかえりなさい。これねぇ、もう腐っていたのよ」
「…え?そんなはずは。だって私、それ昨日の夜に作ったばかりです」
「あらそう」
それでも捨てるのをやめない。きんぴらごぼう、卯の花、春雨サラダ。
「お弁当にも入れていこうと思ってて…」
まだ、一回しか食べてない。昨日の夜に作って、きょうのお昼にお弁当にいれただけだ。
「はぁ…」
姑が急に大きなため息をつきだす。うんざりした顔。私、何かしてしまったのだろうか。
「じゃあ言わせてもらうわね。さつきさんの作るご飯、私たちにはしょっぱいのよ」
だからって全部捨てなくてもいいじゃない。そう言いたくなる気持ちをグッとこらえ「そうですか」と口にする。作り置き用に濃いめに作りすぎてしまったのかもしれない。そう思うと何も反論できず、むしろ申し訳なくなってきた。
「あしたから気をつけます。すみません…」
「ごめんなさいね、私もこういうことってあまり言いたくないんだけど…あなたのためを思って」
すまなそうに話をする姑を見て、胸がギュッとなった。料理の味付けに対して喜んでダメ出しする人なんていないだろう。きっと姑も心苦しいはずだ。
それから薄味の料理を意識するようになると、姑に文句を言われることはなくなった。しかし、
「ねぇ、最近味付け変えた?」
「うん、ちょっと減塩を意識してみたんだけど…健康のために」
「まずいよ」
「え?」
蓮が差し出してきたのは、朝私が作ったお弁当。何も手がつけられておらず。目の前でそのままごみ箱に捨てられた。
「ちょっと…!」
「まずい。食べたくない。これなら前の嫁のほうが料理上手だったわ」
胃の奥から何かがせりあがってくるような、気味の悪い不快さを感じた。
NEXT:2022年6月10日(金)更新予定
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- ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。