近所や病院で「ひどい嫁」にされて…
またあしたも無視されるのだろうか。近所の人に陰口をたたかれるのだろうか…。そんな不安に襲われることが増えた。
それでもこれまで通り姑との暮らしは続いていくし、途中で逃げられるわけでもない。
「いつも電車とタクシーだったから、車で行けると楽ねぇ」
助手席に姑を乗せ、病院まで運転していく。同居が決まったとき、蓮と私で順番に休みを取り病院に連れて行くと約束したのだ。慣れない土地で交通機関を乗り継いでいくよりも、そのほうが姑のためになるだろうと思った。
今月は私の当番。
先日思わず耳にした本音が嘘だったんじゃないかと疑いたくなるほど、姑は助手席で楽しそうにおしゃべりしてくれた。
しかし、それは、ほんの少しの気まぐれだったのかもしれない。
「痛かったよぉ…痛かったぁ…」
病院につくなり、急に姑がその場に座り込んだ。
「お、お義母さん…?どうしたんですか?」
手を差し伸べようとすると払いのけられる。
「やめてぇ!どうして意地悪するの、やめてぇ!」
大声で叫びだす姑を見て、動悸が激しくなっていく。
「どうしたんですか、大丈夫ですか」
騒ぎを聞いた看護師が走ってきた。
「嫁の運転が荒くて!身体が痛くて痛くて仕方ないのよ!」
大声で叫びだす姑を見て、思わず「はぁ?」と声が漏れてしまう。荒い運転なんてしたことない。きょうなんて特に気を遣ったのに。
「私、そんなひどい運転してません…」
絞り出すような声で反論をするものの、ここでは泣いている姑の味方をする人しかいない。嫁による姑いじめ。そう思ったのだろう、ほかの患者も看護師も、みんな私を睨みつけてくる。
「はぁ…お嫁さん、もうちょっと配慮してあげてくださいね」
「配慮って…」
「前の嫁のほうがもっと丁寧に運んでくれたんだぁ。ずっといじめられてるんだよ、新しい嫁に。あぁこわいこわい…!」
前の嫁のほうがよかった。きょうまで何回言われただろう。どうして比べられないといけないのか。
そんなに、私は配慮のない、最低な嫁なのだろうか。
それからも、私は前の嫁と比べられることがあった。ほぼ毎日のように「前の嫁は、玲奈さんは、あなたよりもずっとよかった」と言っていた。
そのうちストレスで体調を頻繁に崩すようになり、急な腹痛や倦怠感で仕事に行きづらくなることが増えた。知らず知らずのうちに姑と蓮の言葉が私の重荷になっていて、「私が悪いんだ」と責め続けた結果、食事が喉を通らなくなった。
蓮は定期的に私を無視する。原因もわからず、聞いても返事をしてもらえない。大きな声で呼びかけたら、もっとわざとらしいため息が帰ってくるだけ。
そのうち夜も眠れなくなり、気づけば心療内科に通うようになっていた。
前の嫁が悪いと言っていたかと思えば、いまは全く真逆のことを話している。どれが本当で、何が嘘なのかわからない。
そもそも、本当に前の離婚原因は玲奈さんのせいなのだろうか。あの2人の話していることは、真実なのだろうか。