ひょんなことから見てしまった、彼氏のスマホの閲覧ページ。まさかの閲覧履歴に、湧き上がる不安。恋人が抱えている秘密は、知らないほうが幸せかもしれない…。
- 登場人物
- 私:この物語の主人公
- 悠馬:「私」の彼氏。同棲中
いつもの夜のはずだった

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ごくごく普通の夜だった。同棲2年目の私たちは、家にあるもので適当にパスタを作り、コンビニで買ってきた安いワインをあけ、Netflixでハマっているドラマをつけて、いつも通りの夜を楽しんでいた。
言い合いのきっかけは、ドラマの登場人物がかっこよかったからだ。
「あの俳優さん、ほかにどんな映画出てるのかな」
「俺調べるよ」
私のちょっとしたつぶやきに、パスタを食べる手を止めて、彼氏の悠馬がスマホを取り出す。俳優の名前を調べて出てきたWikipediaを、私に見せてきたのだ。
「えっ、これにも出てるの?昨日夜さ、金曜ロードショーでやってた映画」
「うそ!どんな役だった?」
「えっとね、調べる。このままスマホ借りてもいい?」
「うん、いいよー」
悠馬の返事を聞いて、検索しようとしたとき。ふと指がすべり、ほかに開いているページがタブ一覧としてバッと表示されてしまった。
間違えてしまったと慌てて画面を戻そうとしたとき、並んだ閲覧ページの画像からふとピンク色の文字が目についた。
「ラッキーメール…?」
「え?何?」
「ねぇ、これ何?」
ラッキーメールと書かれたピンク色の文字がサイトの上部に大きく表示されていて、「いますぐ会える女の子たちがたくさん♡」なんて怪しげなセリフ。
さらに、可愛い女の子たちの顔写真と「彼氏募集してます」「即会い希望です」なんて、謎のメッセージ。いや、謎ではない。見たままの意味だ。
「なんで出会い系サイトなんて見てるの?」
悠馬がフォークをくるくる回し、皿をじっと見つめる。その間、およそ2秒。数秒の沈黙が私の不安を掻き立てた。
「えっと、なんのこと?」
「たまたま閲覧中のほかのタブ、開いちゃったんだけど。これって悠馬がこのサイトを見てたから表示されるんだよね?」
「…そう、だね」
「使ったの?」
精一杯の冷たい顔で悠馬を睨む。自分の彼氏が、同棲中の男性が、結婚を意識して付き合っている人が、出会い系サイトを使っているなんて信じたくなかった。
「使ってない」
「本当に?」
「本当」
「じゃあなんで見てたの?」
「拓郎の彼女が出会い系サイトに登録してるっぽいって話になって、潜入捜査でもするかってなったの。そしたら拓郎に『お前は彼女にバレたらややこしいことになるから登録まではしなくていい』って言われて、その画面のまま」
拓郎は悠馬の高校時代からの友人だ。よく我が家にも遊びに来るし、おとといはふたりで飲みに行っていた。
「拓郎の彼女って、夏美のことだよね?夏美がそんなことするわけないじゃん」
「いや、してたんだよ」
「信じられない。絶対嘘だ。夏美は浮気なんてするような子じゃない」
「マジで見つけたんだって」
信じてくれよ、と頭を下げる悠馬を見てそっと深呼吸する。悠馬は嘘をつくとすぐ顔に出る。態度にも出る。非常にわかりやすい。
ちょっとした沈黙が気になったが、まぁ気のせいだろう。
私は悠馬を信じることにした。それで、この件は終わりだと思ったのに。