蓮と姑と3人での暮らしが始まり、順調な毎日を過ごしていると思っていたさつき。しかし、ある日さつきは、自分の作った料理をごみ箱に捨てている姑を目撃してしまう。さらに「だってまずいじゃん」と冷たく言い放つ蓮。
自分に悪いところがあったのだろうかと考えるさつきに対し、受け入れがたい現実が次々に降りかかっていく…。
第1話:「あなたのご飯、しょっぱいのよ」目の前でおかずを捨てる姑と夫に嫁は…
第2話:夫の過去
- 登場人物
- 門倉さつき:この物語の主人公
- 門倉蓮:さつきの夫
- 玲奈:蓮の元妻
私は何も悪くない

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「まずい」
まさか夫の蓮にまでそんなことを言われるとは…。さすがの私も落ち込んだ。
それでも作るのをやめるわけにはいかない。これは、私自身が決めたことだった。一度やると決めたら、最後までやり通すこと。学生のころからずっと心に決めていた。
母はいつも「ツラくなったら戻っておいで」と言ってくれていた。だからこそ、ツラくなるまでとことん頑張ろうと決めていたのだ。
「まずい、全然おいしくない」
くる日もくる日も「おいしい」と言ってもらえるために頑張った。テレビで人気の料理研究家のレシピを買った。高い調味料に変えてみた。姑の作り方をまねてみた。しかし…
「はぁ、もういいわよ、さつきさん」
どれだけ頑張り続けても、姑の表情は曇ったままだった。
「あの、お義母さんの作り方を真似してみたんですが…」
「そう…。じゃあそもそも、さつきさんには料理の才能がないのかもね」
「え?」
姑が冷たく言い放つ。横で食事をしている蓮も、呆れたように笑っていた。
「もういいわよ、きっとさつきさんはね、お仕事で疲れているの。疲れたときにキッチンに立ってもおいしいものは作れないわよ」
「そんな」
「これからは私が作るから、あなたは仕事に集中しなさい」
ニコニコと笑う姑の、真意が読めない。
「わかりました…」
仕方なくうなずいて、キッチンに立つのをやめた。
それからしばらくして料理だけではなく、掃除の仕方にも同じように苦言を呈された。そのうち、掃除もしなくていいと言われるようになった。
さらには蓮に無視されるようになった。理由はわからない。家事を全て姑に任せるようになってしまったからだろうか。
「優しさ、なのかな」
働いている嫁、ずっと家にいる姑。せめてもの優しさなのかと思った。優しさを素直に口に出せないから。意地悪に聞こえてしまうのかと。
だって私は自分の料理がまずいと思ったことは一度もなかったし、掃除だってかなり気を遣ってやっていたから。自分に非があったとしても、ここまで責められる理由はどこにもないと思った。
「前の嫁のほうが…」夫から聞いた本音

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「せっかくやってくれるっていうんだから甘えないとね」
『もう、さつき。メンタル強すぎ』
仕事帰りに友人と電話していると、ふとそんなことを言われた。
「どういうこと?」
『だから、それ嫁いびりだって』
「そんなんじゃないって!ただお義母さんは、素直になれないだけだよ」
『はぁ…そんなわけないでしょ。それは絶対嫌がらせだよ』
嘘だ。あんなに優しい姑が、私に嫌がらせをする理由なんてどこにもない。
世間一般的には嫁いびりだと呼ばれる行為かもしれないが、実情はそうではないのだ。みんな表面だけみて話してきているだけで、ここにはそんな要素がどこにもない。
しかし電話をしている私の目の前に、近所の人と話している姑が現れたとき、私の考えがいかにバカだったかを思い知った。
「うちの嫁は家事もしないで、私が働かされてばかりよ。毎日ツラくて…こんな老人に働かせるなんて、ひどい嫁だったわ」
絶句した。わけがわからなかった。そのセリフを吐いていたのが、私に優しくしてくれていたはずの姑だったから。
「あのさ、蓮。聞きたいことがあるんだけど」
蓮からの無視は続いていた。無視され続けてかれこれ1週間。原因もわからないまま、蓮は私を無視し続けている。
「ねぇ、無視しないで」
話しかけても返事がない。目線はずっとテレビに向いたままだ。
「ちょっと、蓮ってば…!どうしてそんなに無視するの?」
少し声を荒げたところで、ようやく蓮が私に視線を向けた。
「お前がどうしようもない人間だからいけないんだろう」
「…え?」
蓮の顔は冷たく、私を見下ろしている。
「無視されて当然の女ってこと。付き合ってたころはもう少し気の利く女だと思ってたのに」
「ねぇ待って、そんなこと言われても…何がいけなかったの?悪いところがあるなら、教えてくれないとわからない」
「それくらい察しろよ」
「できないから聞いてるんだよ!理由もなく無視しないで」
「はぁ…前の嫁のほうが話がわかる女だったんだけどなぁ」
心の奥に深く、深く刃が刺さっていく。
「どうしてそんな言い方するの?すごく不愉快なんだけど」
「うっざ」
蓮はため息をついて、そのまま部屋を出ていく。私の、何がいけなかったの?