娘の目に入った、証拠写真
「ふざけるな!」
ゆかりの耳に、キーンと娘の声が響く。その日、学校から帰ってくるなり桜はゆかりを怒鳴りつけた。
「桜、どうしたのいきなり…」
娘の怒鳴り声に怖気づき、動揺するゆかりの前に、さくらは1枚の写真を見せた。
それは、ゆかりと佐々岡が車内でキスをしている写真だった。あの日、現実を見てこの関係はいけないんじゃないかと疑問を呈したゆかりに、佐々岡が会い続けたいと言って唇を重ねたときの写真だった。
「な、にこれ」
ゆかりは写真をそっと手に取ると、徐々に血の気が引いていくのを感じた。
「最低だよ、気持ち悪い!」
「待って、これは、勘違いで…」
「これのどこが勘違い?!ふざけんな!高橋くんが言ってたよ、私の母親と佐々岡先生が不倫してるって。ホテルに入って行く写真もあるって!ふざけるなふざけるなふざけるな!」
桜は半分絶叫しながらゆかりに罵声を浴びせ、制服のまま家から出ていく。
「待って桜、話を聞いて!」
ゆかりが止めるのも虚しく、桜は玄関を飛び出していった。
それと同じタイミングで、クラスのママ友からメッセージが届く。
「ゆかりさんこんにちは!高橋さんから聞いたんだけど、佐々岡先生と不倫してる…?結構噂広がっててヤバいんじゃないかなと思って、もし違うなら訂正して回るんだけど大丈夫かな?」
ゆかりは思った。夢であってくれ、と。
ゆかりと佐々岡が男女の仲になって、わずか1カ月後のことだった。
終わりは突然に…
高橋さん。桜のクラスメイトの男の子だ。小学校のころからの知り合いで、母親は気さくで、明るい人。ボスママ的な雰囲気があって、かなりの情報通だ。
「高橋さんに撮られた、のかな…」
ゆかりは夢なんじゃないかと、自分の頬を数回ひっぱたいた。しかし、何度叩いても、これは現実だった。
ゆかりと佐々岡は、たしかに誰にも言えない不倫関係だった。でも秘密にしなければいけないのを知っていたにもかかわらず、出会う場所は地元の駅前や繁華街、通学エリアの付近ばかり。誰かに見られるリスクは大いにあった。
「どうしよう、どうしよう…」
夫の耳に入る前に、この状況をどうにかしなければ。そう思うゆかりに、一本の電話がかかってきた。夫だった。
「なぁ、いま警察から電話が来たんだけど」
「…え、警察?」
「ゆかりを保護してるって」
ゆかりは思考がまとまらなくなり、何も返せなくなる。
「どういうこと?」
「ゆかりが夕方家を出て行って…」
「ゲームセンターに制服のままでいたって」
「そうなのね…私、迎えに行くわ」
「気づかなかったの?」
「えっと」
「もう22時だよ。気づかなかったの?桜が帰ってこないって」
「あの…」
「何があったの?」
「帰ってきたら話すから。私、迎えに行ってくる」
「いやいいよ。第一どうして警察が俺に電話をかけてきたか、わからない?」
「どういうこと?」
「桜が言ったんだって。お母さんには迎えに来てほしくないから、お父さんに電話してくださいって」
夫が帰ってきたら、適当に嘘をでっちあげればいい。親子喧嘩がもつれて出ていっただけだと、適当に言えばいい。そんなゆかりの考えはあっという間に砕けて散った。
NEXT:2022年7月8日(金)更新予定
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- ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。