観劇の帰り、佐々岡と遭遇したゆかりは勢いで彼をバーに誘う。お酒の入った2人はあっという間に距離を縮め、ついに禁断の関係へと進んでしまった。
しかし罪を犯した2人の幸福は、そう長く続かないのであった…。
第1話:娘の担任と学校で…20歳差の男女は、なぜ不倫関係になったのか?
第2話:男と女、すべてが崩壊した日
- 登場人物
- 小泉ゆかり:44歳主婦。この物語の主人公
- 小泉桜:13歳。ゆかりの娘
- 佐々岡:24歳。桜の担任
「担任と保護者」から「男と女」に変わった夜

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「先生はいま24、でしたっけ。私と20歳も年が離れてるんですよね。もう息子って言ってもおかしくないですよ」
「そんな、小泉さんまだまだお若いじゃないですか」
1杯だけといいつつ、ゆかりと佐々岡は3杯ほどのお酒を飲んだ。店に入ってかれこれ1時間。ほろ酔い気分の2人は徐々に、担任と保護者から男と女に変わっていく。
薄暗いバーでお酒を飲む男女。
何かが始まりそうなこのシチュエーションで、何も始まらないほうが不思議なのかもしれない。
「若いだなんてそんな、褒めても何も出てきませんよ」
「え~そうですか?ご主人、毎日幸せだろうなと思います。こんなにきれいな方と一緒に過ごせるんですから」
佐々岡の言葉は、別に本心でもなんでもなかった。社交辞令と、お酒の勢い。こういえば女性は喜ぶだろうという考え。しかしその言葉がどんどんゆかりの心を刺激していく。
「もう…先生、そんなに褒めると照れます。主人はもう私にちっとも興味がないと思いますよ。顔を合わせれば文句ばかりですから」
実際夫から、文句を言われない日などなかった。昨晩は劇場に着ていく服を選んでいたゆかりに対して「おばさんの若作りって見苦しいな」と笑いながら言ってきた。
「きょうの洋服、とてもお似合いですよ。素敵です」
夫に言われた言葉を思い返し「ひどいですよね」と落ち込むゆかりに対して、佐々岡は自然と褒め言葉を口にする。その言葉に、ゆかりはまたしても心がときめいた。
「先生みたいな優しいかたと出会えてたら…って最近は思うんです。私が独身だったら、好きになっていたかもしれません」
それはゆかりの本心だった。お酒の勢いで、つい本音が漏れ出てしまった。
「小泉さん…」
引かれてしまっただろうかとゆかりは急に不安になる。いまの言葉を撤回させてください、冗談ですと言おうとしたとき、
「僕も小泉さんみたいな素敵な女性、きっと好きになっていました。いまもいいなと思います」
佐々岡のセリフは半分社交辞令で、半分お酒の勢いだった。
でも酒が進むにつれてそれは本気の言葉に変わっていき、気づけば2人は肩を寄せ合い「帰りたくないです」と話すようになっていた。
ただ2人は担任と保護者で、始まってはいけない関係である。それはお互いに知っていた。
しかしアルコールのせいにして「仕方なかった」と言い訳することはたやすい。
2人はそのままバーを出て、あろうことか夜のホテルに消えてしまった。酔った2人に、止める理由などすでに存在しなかった。