きょうもまた、夫が家に帰ってくる。
新婚生活って楽しいものだと思っていた。ドキドキするような毎日が待っているんだと夢見ていた。だけど現実は違う。
ふたを開ければ、うんざりした夫の顔と繰り返し謝る妻の顔がそこにあった。
- 登場人物
- 私:この物語の主人公
- 弘:「私」の夫
夫の要望

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「俺、腹減ってるんだけど」
仕事から帰ってきた夫の弘(ひろし)は、ソファーにドカッと腰かけて大きなため息をついた。そんな風に私を睨みつける暇があるなら、食卓に箸のひとつでも並べてよ。
「もうちょっと待ってね」
「夕飯何?」
「きょうは親子丼とお味噌汁と、野菜サラダ」
「それだけ?」
「ごめん…時間がなくて」
「はぁ…めぐみってもっとさぁ、パパっと作れないの?一汁三菜っていうでしょ。丼ものなんて栄養取れないよ」
「気をつける」
「ほんっと、実家暮らしはダメだなぁ」
私と弘は、結婚前まで別々に暮らしていた。
実家暮らしの私と、一人暮らしの弘。弘の住んでいたアパートは2人で住むには手狭だったし、同棲するくらいなら、実家でお金を貯めて結婚式の費用に当てたいと思ったからだ。
入籍から1週間で順調に同居がスタート。ワクワクの新婚生活が待っていると思っていたのだが…。
「実家暮らしはダメっていうけど、帰ってきてから30分でご飯支度って難しいよ。服を着替えたり手を洗ったりって考えたら20分くらいしか時間ないんだよ?」
「主婦ならできるんじゃないの?俺の母さんだってパート行ってたけど、いっつもすごい豪華な夕飯出してくれてたよ、20分もかからずぱ~っと」
じゃあお母さんのご飯、ずっと食べてればいいでしょ。
思わず漏れ出しそうになる本音をグッと飲み込む。たった30分、私の方が帰ってくるのが早いだけ。共働きなんだから、手伝いくらいしてくれてもいいのに。そうしたらもっと早くご飯だって出来上がるのに。
弘は、帰宅したら食卓に暖かいご飯が並んでいるのが理想らしい。
一回作り置きをしてレンジで温めてから出したら「できたてに比べて味が劣るし無理」と言われた。それから作り置きも小鉢のおかず程度しかできていない。加えて、お弁当は夕飯の残りだとダメだという。
こんなことなら同棲しておくんだった。一緒に暮らしてみないと、食事へのこだわりってわからないものなんだな……。私は入籍1カ月にして、弘との結婚を後悔していた。