なんか怪しい…彼氏に抱いた違和感

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次の日。美月と良晴は予約している定食屋に向かっていた。
「あの角曲がったところにある雑貨屋、いいよな」
「え?雑貨屋?」
突然良晴が話しかけてくる。熱海なんて2人で初めてきたはずなのにと、美月は首を傾げた。
「あ、ほら。そこのお菓子屋。お土産買いに後で寄ろう。職場の同僚に好評だったんだよ」
「…好評?食べたことあるの?」
「うん、前に買ったじゃん」
買ったことなんてない。家族旅行で来た記憶と被っているのだろうか。美月はどこか知ったような口ぶりの良晴に疑問を抱きつつ、適当に話を合わせる。
そうこうしているうちに定食屋についた。席に着くなり、美月は言葉を失ってしまう。
「ここ、前もおいしかったよな。美月は何食べてたっけ、和定食だっけ」
はじめて、来たのに。美月のずっと感じていた疑問がついに姿を現した。家族と来たわけじゃない。ほかの、誰か。
「ねぇ」
「ん?」
「それ、行ったの私じゃないよ」
まっすぐ良晴の顔を見つめて、震える声を抑えるように静かに問いかける。
「…えぇ?」
少し裏返った声で良晴が返事をした。すこし焦った様子が伝わってくる。しまった、とでも思ったのだろうか。
「誰と来たの?」
「…あ、あぁ!ごめん、家族と来たのを勘違いしてた。数年前に母さんたちと来たんだよ。ごめんごめん」
「そうなんだ」
これ以上の詮索は旅行の雰囲気が一気に台なしになる。美月は問い詰めたい気持ちを抑え、笑って受け流す。どこかほっとした表情の良晴が、さらに美月の不安を増大させた。
ふくらむ不安

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「それで、聞きたいことって何?」
熱海旅行から帰ってすぐ、美月は美月の幼なじみで良晴の親友である翔(かける)に電話をかけていた。
もともと大学でも翔と一緒に過ごすことが多かった美月は、翔の紹介で良晴と付き合い始めた。「付き合うことになった」と報告したとき、うれしそうにしていた翔の顔が忘れられない。幼なじみと親友が付き合うなんて、と。
「良晴が隠し事をしてるみたいなの。昨日熱海から帰ってきたんだけど、私たち初めて行ったはずなのに、良晴は誰か別の人と行ったことがあるみたいなんだよね」
「家族とか、元カノじゃないの?」
「いや…家族って感じじゃなかったよ。それに元カノだったら素直に元カノだって言えばいいだけじゃない?なんだか焦ってて怪しかったんだよね」
「うーん…勘違いだと思うよ」
「そうかなぁ」
「それよりさ、熱海どうだった?楽しかった?」
翔の言葉にどことなく違和感を覚える。なんだかあいまいで、ハッキリしない返事。
「楽しかったけど…」
「じゃあよかったでしょ。終わりよければすべてよし、っていうじゃん」
「そういう問題かなぁ…」
「そんなに気になるの?」
「気になるよ。彼氏が隠し事してるかもって…なんとなく浮気を疑ってる」
「浮気って、そんな。ねぇ…」
電話を切ってからも翔のあいまいな返事がどこか気になった。ますます不安を増大させた。
美月は高校時代からの女友達に連絡を取り、浮気調査を開始することにした。こういうときに頼れるのは彼氏の親友ではなく、まったく関係のない第三者である。