「ください」どころか「くれ!」と人の物をなんでもほしがる「クレクレママ」。
断ってもクレクレ攻撃はしつこく続き、あげたくないものまで「ちょうだい」と執拗に迫ってくるクレクレママに、悩まされている人も少なくないようです。
今回は、そんなクレクレママに悩まされた女性のお話をご紹介します。
- 登場人物
- 保奈美:この物語の主人公
- 拓海:主人公・保奈美の息子
- 聡美:主人公のママ友
- 沙耶:聡美の娘で拓海と同じクラスの女の子
- 松江さん:主人公・保奈美と同じマンションの住人。ハンドメイド作品を販売している
クレクレママのはじまり

image by:Shutterstock
「ねぇ、この椅子ちょうだいよ!」
聡美の言葉にびっくりして、すぐに「うん、いいよ」と返事をしてしまっていた。どうせ捨てようと思っていたのだ。
息子の拓海が1歳のときに買ったベビーチェア。もう座る人はいないのに、4年経ってもその椅子はダイニングに堂々と鎮座していた。
「邪魔なんだよね。でも捨てるタイミング失ってて」
そんな私の言葉を聞いた聡美は、すぐに「ちょうだい」と言ってきたのだった。
家から歩いて5分のところにある桜が丘幼稚園は、地域に密着したアットホームな幼稚園だ。
先日行われた開園50周年のイベントでは、地域の人を呼んでこぢんまりとしたお祭りを開いた。
その温かさと親しみやすさに惹かれて入園を決めた人も多いだろう。私もその1人だった。
「保奈美ちゃん、きょうもらっていい?このまま持って帰る」
拓海と同じクラスの沙耶ちゃんのママ、聡美さん。家も近所だから送り迎えのときによく会うようになり、あっという間に仲良くなった。
そんな聡美さんに、園の帰り「よかったら家でお茶でもどう?」と誘うのはごく自然な流れだった。
「全然かまわないけど、重くない?また後日でも大丈夫だけど」
「ううん、家すぐそこだしかかえてかえるよ」
「そう。じゃあ、気をつけてね」
聡美さんはそのまま折り畳みのベビーチェアを抱えて、マンションのエレベーターを降りていった。
この地域に引っ越してきたのは、拓海が1歳になったころ。子育て支援の整っている地域だったし、夫もオフィスに近いこのエリアをもともと希望していたからちょうどよかった。
購入したのは中古の分譲マンション。インテリアが大好きな夫が知り合いのデザイナーに頼み込んで、フルリノベーションしたため、とても中古には見えない。
おしゃれな夫のこだわりは子育てにも表れた。おしゃれな育児グッズ、おしゃれなベビー服、おしゃれな食器…。最初は「安くてもいいのあるのに」とまったく乗り気じゃなかった。
しかしママ友におしゃれなアイテムを褒められていやな気もしない。きょうのように聡美に「ちょうだい」と言われるのも、正直言って悪い気はしなかった。
私の持っているものを、羨ましいと思ってくれているから。しかし、その想いはすぐに打ち砕かれる。
「ねぇ保奈美ちゃん、このジーパンもう小さいよね?あとこのトレーナーも。あ、やだ。靴も小さいんじゃない~?」
聡美はベビーチェアを持って帰ったその日から頻繁に我が家にやってくるようになり、拓海のサイズアウトしたものをほしがるようになった。
「靴はまだ履けるから大丈夫」
「そう?拓海くんって成長早いから、すぐにサイズアウトすると思うんだけど」
「身長と体重はグングン育ってるけど、足はゆっくりだよ」
「そっかぁ。沙耶にちょうどいいと思ったんだけどなぁ」
ちょうどいいと思ったからほしいの?じゃあ買えばいいじゃない。それはうちが拓海に買った靴なんだけどな…。あなたの娘にちょうどいいと思って買った靴じゃない。
「ごめんね。それ結構いいブランドの靴だし、ギリギリまで履かせたいんだ」
なんとか言葉を絞り出して断ったが、あとから嫌味のように聞こえたのではないかと落ち込んだ。