出会いは必然だった
私と優子さんが出会ったのは、元カレと付き合っていて半年くらいのことだ。はじめて彼の家にお邪魔したとき、優子さんは私にコーヒーを淹れてくれた。手土産に持っていったクッキーを、「おいしいおいしい」といって食べてくれたのをいまでも鮮明に覚えている。
それからは「彼のお母さん」「息子の彼女」として、一定の距離感を保ちながらなかよくしていた。およそ半年ほどそんな関係が続いただろうか。
関係が変わったのは、私が25歳の誕生日を迎えた日だった。彼が旅行を計画してくれていたのだが、なんと寝坊。起こしに来た私を優子さんが出迎えてくれた。
「ごめんねみかちゃん。たかしさっき起きて、いまシャワー浴びてるの。よかったらリビングで待っててね」
「ありがとうございます」
「みかちゃんお誕生日なんでしょ?私知らなくて、今度何かプレゼントさせてね」
「いいんですそんな、お気遣いなく!」
「ううん、気にしないで。たかしも教えてくれたらいいのに…あ、時間は大丈夫?何時の電車なの?」
「えっと…」
私がスマホの画面をつけると、急に優子さんが声をあげた。
「えっ!?その人、好きなの?」
優子さんは私のスマホの待ち受けを指さす。待ち受けは私が当時からずっと推している舞台俳優の写真だった。
「はい、大学生のころからファンで…」
「えーっ!ちょっと待ってて!」
そういって優子さんはリビングの棚をあけ、なかからその俳優が出演した舞台のDVDやパンフレットを取り出す。
「その人、私も大好きなの!」
そこから私と優子さんは意気投合。シャワーから上がってきたたかしに「なんで急になかよくなってるの?」と不思議がられたくらいだ。
優子さんは私の誕生日プレゼントとして舞台のチケットをくれた。2枚もらったのだがたかしはまったく興味がなさそうだったので、優子さんとふたりで行った。そのあとも頻繁に劇を見に行くようになり、距離がどんどん縮まったのだ。
それから1年後、26歳になった年の夏に私はたかしとお別れした。
「私、たかしくんと別れることになりました」
優子さんに別れたことを伝えたとき、心のなかでは「きっとこの関係も終わりかな」と思っていた。しかし優子さんが返してきた言葉は意外なものだった。
「そっかあ。まあいろいろあるわよね、元気出して!そうだ、今夜はちょっと飲みにでも行く?今夜は旦那も帰ってくるのが遅いのよ。一緒にどう?」
「えっ」
「あ!あとね、この近くに確か神社があるのよ。みかちゃんにこの先素敵な出会いがあるように、お参りしていかない?」
「え、え、え?優子さん、あの」
「私、これからもみかちゃんとなかよくしたいの。ダメかしら」
こうして私たちはきょうまで、ずっとこの関係を続けているのだ。