一歩踏み出したかっただけ

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美月は帰り道、美容整形外科の前で足を止めた。せめて二重だったらもっとすっぴんに自信が持てるかもしれない。
沙織にあって自分にないもの、それはきっと素顔のかわいらしさだ。それがあれば、きっと良晴の一番になれる。二股なんてやめて、美月だけを見てくれるはず。沙織に勝つことができるはず。
思い立ったらすぐ行動せずにはいられなかった。悩んでいる時間なんてなかった。沙織に差をつけたいなら、休んでいる暇なんてない。
次の日カウンセリングに訪れた美月は、そのまま二重の埋没手術を受けた。当日施術ができると言われ、即決だった。
「で、整形したの?」
「うん。もうアイプチもしなくていいし、これならすっぴんになるのも怖くない。もともといつかはしたいな~って思ってたからちょうどいいの」
「ふーん…」
仕事帰り、美月は翔に遭遇した。せっかくだから一杯飲もうよと美月が誘い、駅前の居酒屋に入る。そして美月は沙織に会ったこと、悔しくなってもっとかわいくなりたいと考えたこと、すぐに二重整形をしたことを打ち明けた。
「整形ってあれ、ダウンタイムとかあるんじゃないの?目腫れるとか」
「あったよ。でも3日くらいで腫れ引いたし、良晴ともしばらくデートの約束ないからいいんだ」
「良晴、知らないの?」
「うん。話してない、話す必要もないでしょ。私が勝手にやってるんだし」
翔の心配そうな顔も、気にかけてくれる声も、美月の耳には届かなかった。
大丈夫?無理してない?心配だよ、そんな翔の言葉はちっとも響かない。
むしろ鏡を見るたびいろんなところが気になって、ますます不安になってしまう。二重にしたところで沙織に勝てるのか?沙織はもっと肌もキレイで、鼻筋も通っていて、唇はふっくらとしていたし、おでこもまるかった。
「ヒアルロン酸注入…鼻のプロテーゼ…へぇ、美容整形っていろんなのがあるんだ」
お金をかければ沙織に勝てるかもしれない。良晴が二股をやめて、私だけを見ていてくれるようになるはず。