恋人、良晴の二股が発覚し戸惑いを隠しきれない美月。モヤモヤとした気持ちを抱きながら、美月は二股相手の職場へと足を運ぶ。しかしそこにいたのは、美月と正反対のルックスを持つ美しい女性だった。
「もっとかわいくならなくちゃ」そんな思いを抱いた美月の足は、美容整形外科へと向いていた…。
第1話:男は結局「すっぴん美人」なのか?尽くす女を最悪な形で男が裏切った理由
第2話:彼氏の二股相手に接近し…
- 登場人物
- 美月:この物語の主人公
- 良晴:3年間付き合った美月の彼氏
- 翔(かける):美月の幼馴染で良晴の親友
- 沙織:良晴の二股相手の女性
- 景子:美月の友人
キレイなあの子

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度重なる翔への聞き込みと友人たちの調査で、二股相手の女性の名前と勤務先が判明した。
沙織さん、同い年の24歳。都内の百貨店で有名コスメブランドの美容部員をしている。
美月は良晴への怒りと同時に、沙織への興味を抱いてしまった。良晴が自分をだまし続け、二股を続けている女。きっと沙織も知らないのだろう、良晴が二股をしているという事実なんて。
だからこそ、自分と同じように騙されている女の顔を、まずは実際に見てやろうと思ったのだ。
「写真ならいくらでもごまかせるじゃない」
美月は不安そうな顔をしている友人、景子に声をかける。
「まぁそうだけど…二股相手の顔を見に行くなんてよくやるわ。私なら怒りで絶対に無理、それどころじゃない」
「よく考えて?怒りの矛先を向けるべきは良晴だよ。沙織さんだって一応被害者なんだし。被害者の会を作るにあたって相手を知るのって大事だと思うの」
口ではそう言っても、それが本心ではないことは、自分でもうすうす気づいていた。
写真のなかの沙織は、自分とは正反対なタイプの、キレイめな女性だった。化粧っ気もなくて、美人。化粧でごまかし、素顔を隠している自分とは真逆だ。そう見えた。
だからこそ、写真の姿はかりそめで、実際は自分と同じように化粧で素顔を隠し、武装している女性だという確信がほしかった。被害者の顔を見ておきたいというのは建前上の理由で、本当は「自分のほうが上だ」と思いたかっただけなのだ。
しかし、いざ沙織を目の前にしたとき、美月は情けないほど素直に負けを認めてしまった。どう頑張っても勝てるような相手じゃない。沙織の笑顔で心がズタズタに引き裂かれていったのだ。
沙織はツヤのある茶髪を後ろにキュッとまとめ、ブランドのコンセプトである華やかなメイクを施し、ニコニコと明るく声をかけてくる。
メイクをしていても、すっぴんがキレイなのは容易に想像できた。パッチリと幅広な二重、上向きのまつ毛、ふんわり整った眉毛。鼻筋がスッと通っていて、まるいおでことふっくらした唇がかわいらしさをより強調している。笑うたびに白い歯が顔をのぞかせて、上品な声が美月の心を揺さぶる。
「美月、大丈夫?」
沙織の接客を受けながら、景子が声をかけてくる。
「うん」
よほど沈んだ顔をしていたのだろう、沙織もどこか心配そうに美月の顔を見つめていた。
「あの、私…良晴くんの友達なんです。彼女さんですよね…?」
ただ顔を見たかっただけなのに、気づけば話しかけてしまっていた。彼女に接近しようとしていた。隣で景子が息をのんだ。
「そうです…良晴のお友達なんですか!わぁ、いつも彼がお世話になってます!」
沙織は表情をパッと明るくさせ、美月に笑いかける。
「今度みんなでご飯でも食べましょう」
「そう、ですね」
沙織は二股になんてちっとも気づいていないようだった。美月は口紅1本を購入して、何事もなかったかのように百貨店を出る。
「美月」
景子が心配そうに声をかけてくる。
「キレイな人だったね」
「うん…でも、人って見た目じゃないよ?美月だってすごく可愛いし、性格もいいし、落ち込むことないよ」
「…ありがとう」
景子は美月が、「沙織に負けた」と思って落ち込んでいると感じたらしい。
たしかに間違いじゃない、間違いじゃないけれど。そう言うってことは、景子も沙織が美人だと思って、ほんの少しでも美月が負けたって思ったんだろう。
美月は景子に対してもモヤモヤとした苛立ちを感じ、そして友人に当たり散らしそうになっている自分にさらに嫌気がさした。
沙織に会うと決めたのは自分だし、沙織を見下したいと勝手に思っていたのも自分だ。この状況を想定していなかったわけではないのに、受け入れられないから誰かを責めたくて仕方がない。誰かのせいにしたかった。
沙織は、自分よりもうんと美人だった。