結婚2年目。周りに羨ましがられるくらいの仲良し夫婦。ただ少し、最近不満を感じている。
主人公の真琴は、度々女性と2人きりで飲みに出かけるようになった夫の康介にモヤモヤとしていた。「飲みに行かないで」と伝えた真琴に対し、夫の回答とは…。
第1話:「W不倫」の経験がある女性と飲みに行く夫
- 登場人物
- 私:この物語の主人公
- 康介:「私」の夫
- リコ:康介の職場の先輩
- 小野寺:康介の職場の後輩
理解ある妻になりたくて

画像はイメージです。image by:Shutterstock
向かいの坂から中学生たちが楽しそうに歩いてくる。おろしたての制服は、少し大きくて初々しい。子どもを自転車の背に乗せた母親は、汗をかきながら楽しそうに歌っている。
2年前、「子どもが産まれたときに、育てやすそうだから」とここに引っ越してきた。家族連れが多いこの街で、いつか自分たちもするであろう子育てを想像する。我が子を連れて買い物に行くのだろうか、たくさんの友達とああやって笑いあいながら帰ってくるのだろうか。
30歳まで夫婦2人の時間を楽しもう。そんな約束をしたあの日から、もう2年。30歳まで残り3年に迫っていた。
結婚を機にはじめたフリーのデザイナーの仕事は徐々に軌道に乗り始めている。子どもができるまでにある程度の基盤を築いて、安定を手に入れておきたい。そんな自分の願いもそろそろ叶えられそうだった。
それもすべて、夫である康介との関係が順調だったから。周囲に「本当に仲良しだよね」と羨ましがられるくらい、夫婦関係は最高にベストな状態だった。ただ、最近少し不満を感じている。
「ごめん、きょうも飲んでくるかも」
朝、康介に言われた言葉を思い出す。スーツ姿の彼を玄関で見送りながら「大丈夫だよ」と口にする。私の本心に康介は気づいていない。大丈夫という言葉をうのみにして、「ありがとう」と笑顔で答える。
康介が飲みに行くのは一向にかまわない。ひとりで仕事をしている私とは違って、会社での人付き合いもあるのだろうから。夫の会社の人間関係に妻が口出しするのは図々しすぎると思っていたから。
でも、そろそろ我慢の限界かもしれない。
「きょうも、リコさん?」
「うん。大丈夫、ちょっと飲んだら帰ってくるよ」
「わかった…本当、仲良しだよね」
「そんなんじゃないよ、会社の先輩と後輩ってだけ」
康介が飲みに行っているのは、職場の先輩である女性、リコさん。女性と2人きりで飲みに行くのに最初は抵抗があったが、浮気するんじゃないかという不安を康介には伝えられなかった。康介を信じているからこそ、不安を伝えて誤解されるのが嫌だった。
「あしたも仕事なんだから、ほどほどにね」
「うん、ありがとう。行ってきます」
康介の笑顔を思い出しながら、夕焼けに向かって歩いていく。ひとりきりで食べる夕飯の材料を小脇に抱え、誰にも気づかれないようにため息をついた。
夫を信じるのが妻の務め。そう自分に言い聞かせながら。