主人公の横尾真紀は、5歳の娘・さなと夫の慎吾と3人で楽しい暮らしを送っていた。
家族はみんな、料理上手な真紀の作るご飯が大好き。そんな真紀のもとには、頻繁に義母から野菜が送られてきていた。しかし、野菜は大体どれも腐敗していて…。
「もう送ってこないでください」。そう伝えたときから、義母の態度が変わっていく。
第1話
- 登場人物
- 横尾真紀:この物語の主人公
- 横尾慎吾:真紀の夫
- 横尾さな:真紀と慎吾の娘。5歳
- 義母:隣県に住んでいて、野菜を手作りしている。
笑顔で食卓を囲む、幸せな毎日

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「ママ、あしたお弁当ににんじんの甘いやついれて?」
「うん、わかったよ」
5歳になる娘のさなが、夏野菜たっぷりのカレーライスを食べながら私に話しかけてくる。
「あっ、パパもいれてほしないなぁ」
夫の慎吾も手を挙げた。
「パパ、すっかり野菜克服したね」
「だって、真紀の作る料理おいしいんだもん。こんなに野菜がおいしいと思わなかった。毎日おいしいご飯が食べれて、俺たち幸せだなぁ。なっ、さな」
「うん!ママのご飯、だぁいすき!」
夫の慎吾は出会った当初、野菜が大嫌いだった。唯一食べられる野菜はレタスだけ。
そんな彼の胃袋をがっちりつかんだのが、この私。調理師だった母親の影響で料理が好きになった私は、慎吾の野菜嫌いを見事克服させた。娘のさなも、好き嫌いはほとんどない。
でも、いつも思う。私は別に、特別なものを作っているわけではないのだ。
きょうのカレーも夏野菜がたくさん入っているだけでベースは市販のルーだし(隠し味にはちみつをちょこっと)、さなの話していた“にんじんの甘いやつ”なんて、にんじんをバターで似ただけの簡単なにんじんグラッセだ。
たしかに料理が好きだからいろいろな調理法や味付けをしてはいるものの、レストランのように豪勢な料理が作れるわけでもないし、ほかの家庭料理と変わらない。
だからずっと不思議だった。なぜ慎吾は、野菜が嫌いだったのだろう?と。
「野菜って、いままでなんだか苦くて変な味がしておいしくないと思ってたんだけど、ちゃんと食べるとこんなにおいしいんだなぁ」
カレーに入っていたオクラやレンコンを口にいれ、おいしそうに目を細める慎吾を見て、私も同じように目を細める。
「ずっと食わず嫌いだったの?」
「いや、実家では食べさせられてたよ。でも子どものころの味覚って変なのかな?なんか、とにかくまずかったんだよね」
「ふーん」
ふと思う。お義母さんの料理がおいしくなかったのでは、と。そんなこと口が裂けても言えないが…。