恋が始まる瞬間は、誰にも予想できないのかもしれない
それから一週間も体調が戻らなかった私は、久しぶりにコンビニを訪れた。あの日会えなかったのは、もしかしたら「彼は運命の人じゃない」っていう神様からのお告げなのかもしれない。こうでもしないと諦められないでしょ?と、見えない何かからのメッセージかも。
どっちにしろ、「こういう結末なら、受け入れるしかないよね」と、自分にいい聞かせるしかなかった。
「いらっしゃいませー」
もう佐藤さんのいないレジ。何度も通い詰めた、なつかしさのある店内。ただきょうが休みなだけで、あしたがくればレジに立ってるかも。そんな期待に応えてもらえるはずもなく、私はチューハイをかごに入れる。
「きょうは、肉まんいらないんですか?」
驚いて顔を上げると、店長だった。佐藤さんに覚えてもらおうと毎日のように通った成果は、佐藤さんのいないいまも残っている。この時間帯にコンビニのシフトに入る人たちは、たぶんみんな私を覚えているのだ。それがまた、私の寂しさを加速させる。
「そうだ、うちにいた佐藤ってわかります?」
「え、ええ。やめたかたですよね?」
「そうですそうです。あの、佐藤からお客さんにメモを預かってましてね。僕から渡してくれって頼まれたんですけど…」
店長はポケットから折りたたまれたメモを取り出し、私に差し出してきた。「そうですか、ありがとうございます」と平気な顔で受け取りながらも、動揺が隠せない。佐藤さんから、私に手紙?
コンビニを出て慌ててメモを開くと、佐藤さんの連絡先が書かれていた。いますぐ、連絡したい。
「よかった、受け取ってくれたんですね」
スマホを取り出すのと同時に、聞きなれた声が聞こえた。佐藤さんだった。
「お久しぶりです!まさか会えるなんて、だったら直接渡したほうがよかったですかね」
少し照れ笑いをする佐藤さんは、紙袋を下げていた。どうやら制服を返しに来たらしい。これは、偶然か、必然か。
「あ、あの…これ、本当に私宛ですか?」
「もちろん!本当は最終日に渡そうと思ってたんですけど、いらっしゃらなかったので」
「あ、ごめんなさい。体調を悪くしてしまいまして…」
「そうだったんですか。でもよかった、ちゃんと渡せて。まあ、渡したのは店長ですけどね。本当は、ずっと渡したくて…いまももしかしたら会えるかなと思ってこの時間に来たんです。あ、俺なんか気持ち悪いこといってますね」
へへ、と笑う佐藤さん。ああ神様、あの日私がコンビニに行けなかったのは、この日のためですか?こうしてまた、彼と巡り合うドラマチックな展開を、神様が見たかったからでしょうか?これは運命だって、信じてもいいですか。
「こんなこと急にいったら惹かれちゃうかもしれないんですけど、初めて会ったときから、すごく気になっていて。いわゆる、一目ぼれっていうか…」
私は心臓がまたドキドキと、音を立てるのを聞いた。これは困惑でも不安でもなく、ただ幸せを感じている音だ。
「よかったら、僕と友達になってくれませんか?」
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