結婚2年目。周りに羨ましがられるくらいの仲良し夫婦。ただ、主人公の真琴は、度々特定の女性・リコと2人きりで飲みに出かけるようになった夫の康介に最近不満を感じていた。
「飲みに行かないで」と伝えた真琴に対し、夫の康介はしぶしぶ了承。しかし康介は、真琴に嘘をついてリコと飲みに行ったり、宿泊していたことが判明。
康介の不倫現場に押しかけた真琴。リコらしき女性と仲よく話している夫の姿に、ついに不倫を確信する。真琴に話しかけられた康介の反応と、リコの行動は?そして真琴がくだす決断は…?
第1話:W不倫からの再婚…「修羅場女」とアヤしい仲の夫が放った衝撃的な一言
第2話:妻突撃で修羅場へ!夫の「人妻不倫ホテル密会」はなぜバレたのか?
第3話:W不倫の修羅場で浮気夫が叫んだ「ありえない一言」
- 登場人物
- 私:この物語の主人公
- 康介:「私」の夫
- リコ:既婚。康介の職場の先輩
- 小野寺:康介の職場の後輩
「既婚者だって知らなかったんです」

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もしも不倫現場に妻が突撃してきたら、どうする?そんなことを話し合う不倫カップルって、この世にいるのだろうか。
目の前で呆然と固まっている康介と、少し青ざめた表情で私を見つめる女性を見て、ぼんやりと考えた。
早く終わらせたい。離婚届を出して、「はいさようなら」と捨ててやりたい。こんな人のために自分の時間を使いたくない。これまでの結婚生活に費やした時間もすべて返してほしい。返ってこないのはわかってるから、せめてもうきれいさっぱり終わらせてほしい。
「あ、えっと…小林くんの奥さまですか?いつもお世話になっております」
女性は表情を一瞬で笑顔に変え、女優のようにふるまう。リコらしき女性の咄嗟の判断に、思わず感心しそうになる。
「あはは、こちらこそ。いつもお世話になってます。先日の旅行でも仲よく過ごされていたようで」
康介がこの女と一緒に旅行していたという決定的な証拠はない。それでも話してみる価値はあった。思惑通り、2人の顔から血の気が引いていく。図星だったらしい。
「真琴、ごめん、この通りだ…!」
康介が突然立ち上がり、すぐさま床に這いつくばって土下座をする。落ち着いた雰囲気のバーが一転、修羅場と化した。恥ずかしい、迷惑だからやめてほしい。康介の情けない姿を見て、私は怒りよりも虚しさのほうが勝ってしまった。
「あ、あの。すみません私、既婚者だって知らなかったんです!ごめんなさい!」
女性は土下座する康介を置いて店から出ようと五千円札をカウンターにおいて、そのままお辞儀をして足早に去って行った。
私がその背中を見送り、ため息をついた瞬間だった。
「リコ、何してんの」
バーの入り口から背の高い男性が出てきて、逃げ出そうとするリコの両肩をつかんでいた。
「あなた…」
それは、リコの夫だった。
ついに迎えた修羅場

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私は康介とリコ、リコの夫を車に乗せ自宅に向かった。これ以上バーで話し合うことはできないと悟ったからだ。
千葉街道を車で走り抜け、走馬灯のように夫婦の記憶を思い出してみる。夢なんじゃないかと思うほどキレイな夜景が、なんだかドラマみたいだった。無言の車内でそれぞれが、この先の不安を感じていたであろう、この瞬間が、恋愛ドラマの切り抜きみたいだ。
大して視聴率も取れないだろうな。だっていまから復讐するわけでもないし、私たちに何か大きな問題があったわけでもないし、派手な暮らしもしてないし。悩みのない平凡な夫婦の不倫話なんて、おもしろくない。そう思って、悲しくなる。
何が悲しいって、この状況をまだ自分事だと捉えられていない自分自身だ。
自宅について、リコとリコの夫を部屋にあげる。いつか子どもが生まれたら、4人でこのテーブルを囲むのかな?康介とそんなことを話しながら買ったダイニングテーブルを、まさかこのメンバーで埋めることになるとは。
「ごめんなさい、私…なんだか最近疲れてたみたいで、こんな不倫なんて、するつもりじゃなかったの」
リコがおどおどと自分の夫に話をしている。うるんだ瞳、握りしめた拳、震えた肩。康介が心配そうに彼女を見つめているのが腹立たしく、どうでもよかった。
「信じたのに無駄だったね」
「ごめんなさい、ごめんなさい…」
「いや、もういいよ。離婚しよう」
冷たく言い放つリコの夫に、リコは泣き叫びながらすがりついた。
「嫌だ!嫌です、絶対に嫌!離婚なんてしたくない!もう絶対に不倫なんてしないから、お願い!見捨てないで!」
その瞬間康介が立ち上がった。
「おい、嘘だろ!旦那とは別れて俺と一緒になるって約束してたじゃないか!」
「そ、それは…その場のノリみたいなもので」
「ノリで俺を振り回してたって言うのか?俺は、リコさんと本気で一緒になれる未来を望んでたのに!」
スーッと、心が冷え切っていく。
「へぇ。じゃあ康介は、私と離婚する気だったんだ」
感情的になって身を乗り出している康介のほうを一切見ずに、私はぽつりとつぶやいた。
「ち、ちが…」
「違う?いまの発言を見てたらそんな風に見えなかったけど」
「あの…いまのはムキになっちゃって」
「ムキになるほど、好きなんだね、リコさんのこと」
リコが泣き出す。泣きたいのはこっちだよ、涙も出ないけど。きっとリコの夫も同じことを考えていたのだろう。大きなため息をついて、ゆっくりと目をつぶった。
「康介、離婚しよう。好きな人と一緒になればいいじゃん。私はもう、康介とは一緒にいれない」