義姉と同じマンションに住む、主人公の沙耶(さや)。癖の強い義姉が近くにいることに不満を感じていたが、それでも何とかうまく過ごしていた。
しかし、義姉に子どもが生まれてから状況が大きく変わる。それは、地獄の毎日のはじまりだった。
第1話
- 登場人物
- 倉橋沙耶:27歳。育休中の保育士。この物語の主人公
- 倉橋俊:27歳、会社員。沙耶の夫
- 倉橋凛:8カ月。沙耶と俊の娘
- 飯田真由美(義姉):32歳。育休中の会社員。主人公夫婦と同じマンションに住んでいる、俊の姉
- 倉橋大和(義弟):定職につかずアルバイトをしている24歳。俊の弟
図々しい義姉

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「お義姉さん、よかったらこれ使ってください。おかゆ作るときに便利なんですけど、うちじゃもう使わないから」
12月に1歳を迎えた我が子が使っていた離乳食グッズを、義姉の家に持っていく。今月から離乳食を始めるんだと言っていた義姉は、たいそう喜んでいた。
「ありがとね、ベビーグッズって高いのばっかりだから助かる~。沙耶ちゃん、けっこうこだわるタイプ?どれもいい値段するんじゃないのー?」
「いえいえ、ドラッグストアとかで買ったものばかりですよ」
「そうなんだ。ありがとー、使わせてもらうね」
義姉の家は同じマンションの別の階にある。義実家は歩いて約5分のところ。別居しているようで、半分同居しているような、なんとも息の詰まる距離感だ。
最初は義母との同居を夫に迫られたものの同居は嫌だと拒否をしたら、夫に「せめて近所に住ませてくれ」と言われた。
それで、しぶしぶ夫の意見を飲み、義実家の近くのマンションを購入。
義姉が同じマンションの別の階を購入したと知ったのは、それから1週間後のことだった。
「沙耶ちゃんとこ、今晩何食べるの?」
「今夜はカレーです」
「へー!じゃあおすそ分けちょうだいよ、あとでお鍋もってくからさ」
「えっ…困ります、人数分しか作ってないので…」
義姉は私の言葉に、少しムッとした顔をする。
「えー?カレーって2日目がおいしいんだよ?多めに作っておかないとさぁ」
「2日連続カレー食べるの、私苦手なんです。夫も好まないので」
「うっそー!実家にいたころは、俊も2日目のカレー食べてたよ?」
俊というのは、私の夫だ。
「お義母さんのカレーのほうがおいしいからじゃないですかね」
タイミングよく、ベビーカーで大人しく座っていた凜がぐずり始める。
「あ、ごめんなさい。お昼寝まだだったから眠いみたい。それじゃあまた」
私は軽くお辞儀をして、そそくさとエレベーターに向かう。
そろそろ義姉も気づいているだろうか、わざとお昼寝前のぐずりやすい時間に義姉の家を訪問していることに。
娘の凜を帰る口実に使うことに最初は抵抗があったが、一番後腐れなく帰るためにはうってつけの手段だった。