義姉が流した「噂話」
「あ、そうだ」
エレベーターを待つ私の背中に、義姉が声をかけてくる。
「あのさ、あしたからちょっと朝からうちの子の面倒見てくれない?沙耶ちゃん保育士だから、赤ちゃんの面倒みるのうまいでしょ!一週間ぐらい、お願いしてもいい~?夕方には迎えに行くからさ」
「…なんでですか?」
「んーなんか息抜きしたいなって」
「でしたら一時保育とかベビーシッターさんとか、紹介しますよ」
「いやいや、お金かかるじゃん!身内ならタダでしょ?節約だよ~」
「申し訳ないですけど、私ボランティアで保育士はできないです。何かあったときに責任も取れませんし…あとでお世話になってるシッターさん紹介しますね」
ちょうどよくやってきたエレベーターに乗り込んだとき、義姉の「ケチな女」という言葉が聞こえてきた。
知らんぷりしてそのままエレベーターに乗ったが、ずっと義姉の言葉が頭にへばりついて離れなかった。
2日後、ゴミを捨てにでたときにママ友の沢田さんに声をかけられた。
「ねぇ倉橋さん、ちょっと…飯田さん、あ、お義姉さんと喧嘩したの?」
「え?どうして?」
「きのうからお義姉さん、倉橋さんのこと意地悪な嫁って言いふらしまくってるのよ。なんかあったんじゃないかと思って心配で…」
「はぁ…?めんどくさいことするなぁ…」
「児童館でよく会うママさんたちは倉橋さんのことよく知ってるから、みんな信じてなかったんだけどね…ちょっと気をつけた方がいいかも」
「わかった、ありがと…」
いつもそうだ。義姉は気に入らないことがあると必要以上に騒ぎ立てる。今回はついに第三者まで巻き込みだしたようだった。
めんどくさすぎる義姉の行動のせいで、その日児童館ではかなり肩身の狭い思いをした。
倉橋です、と名乗るとなぜかみんな引いていく。たまたま馴染みのお母さんたちが来ておらず、結果的に一人ぼっちで過ごすことになった。
かわいそうなのは娘の凜だ。なぜか「暴力的な子」と噂を流されたらしく、あからさまに避けられている。
しかし、噂は所詮噂だ。普段通りの姿を見ればデマだとすぐにわかる。ママ友たちの協力もあり、結局噂はすぐに終息した。
義姉のうざったい行動が終息してホッとしたのも束の間、すぐに第二のトラブルが舞い込んできた。