義姉と同じマンションに住む、主人公の沙耶(さや)。癖の強い義姉が近くにいることに不満を感じていたが、それでも何とかうまく過ごしていた。
しかし、義姉に子どもが生まれ、義弟が同居することになった日から生活は一変。
非常識すぎる義弟と義姉の行動、無関心すぎる夫の態度。すべてに限界を感じた沙耶は、ついに娘と共に実家に帰る。
暖かく出迎え、一緒に怒ってくれる両親。そして義姉と義弟、夫の態度は…。離婚か、再構築か、沙耶の出す決断とは?
第1話:「最低なんすよ、俺(笑)」突然転がり込んできた義弟の気持ち悪すぎるセクハラ行動
第2話:「働きたいから平日はうちの子預かって」義理姉の身勝手すぎる要求に私が出した答え
第3話
- 登場人物
- 倉橋沙耶:27歳。育休中の保育士。この物語の主人公
- 倉橋俊:27歳、会社員。沙耶の夫
- 倉橋凛:8カ月。沙耶と俊の娘
- 飯田真由美(義姉):32歳。育休中の会社員。主人公夫婦と同じマンションに住んでいる、俊の姉
- 倉橋大和(義弟):定職につかずアルバイトをしている24歳。俊の弟
- 飯田龍之介:6カ月。義姉・真由美の息子
心強い、両親の言葉

image by:Unsplash
実家は、我が家から車で1時間ほどの距離にある。職場と保育園までは車で40分ほどと少し距離はあるが、腹をくくって実家から通うことにした。
「保育園には事情、話したんでしょう?」
実家に帰った次の日、母とキッチンに並んで夕食の準備をしているときだった。
母は少し心配そうな顔で私に聞いてくる。
早朝我が家に突然やってきた義姉が、6カ月になる息子…私にとって義理の甥である龍之介を無理やり押し付け、最終的には「覚えてろよ犯罪者」とまで罵倒されたあの事件について、両親には洗いざらいすべて話した。
もちろん洗いざらいの内訳には、その後の夫の対応についても含まれている。
いますぐ離婚しろと父は怒鳴っていたが、母は「勢いで決断したら後悔するかもしれないから、まずは距離置いてじっくり考えよう」と話してくれた。
それでも状況が変わらないなら、うちらの出番だねという言葉を添えて。
「私以外の人が迎えに来ても絶対に園にいれないでくださいって話した。家庭の事情が知られるのは正直抵抗あったけど、凜を守るためだもん仕方ないよね」
「そうだね…」
リビングからは、父と凜の楽しそうな声が聞こえてくる。
最近は義弟の大和がいるせいで私が気を張ってしまい、凛と存分に遊ぶことすらできなかった。
ついこの間まで平和に暮らしていて、職場復帰をしてもなんとかやっていけるだろうと思っていたのに。
もっと何かできることはあったんじゃないか。うまくやれば、義弟も義姉も穏やかに追い出せたんじゃないか。考えてもきりがなかった。
「沙耶、スマホ鳴ってるぞ。俺出ようか」
リビングから父が凜を抱っこして、スマホを持ってやってくる。
「え、私?」
スマホを受け取ると、そこには「義姉」と表示されていた。
「俺が出て、ガツンと怒鳴ったらひるむかな」
「お父さん…大丈夫、無視しとけばいいよ」
「いつでも怒鳴ってやるからな、俺に任せろ」
父は二ッと笑って、再びリビングへ戻っていった。電話の切れたスマホを見ると、義姉と夫からメッセージが届いている。
「それ、母さんも見ていい?」
「うん」
母と共にメッセージに目を通す。
そこには義姉からの「帰ってきてくれないと子どもの預け先がなくて困ります」と、夫からの「大和の分のご飯がなくて困る」というメッセージが表示された。
「…沙耶さ、あちらのお母さんには相談した?一度話してみたら?ちょっと…想像以上に事の重大さを意識してないみたいだね。この人たち」
「そうだね…」
「言ってみなよ。電話でいいんだからさ、母さんも聞いててあげるし」
「うん」
私は満を持して、義母に事件をすべて打ち明けることにした。
子どもたちの非常識な行動。義母の答え

image by:Unsplash
『つまり、大和にセクハラされて、真由美には都合よく扱われて、俊にもまともに取り合ってもらえないって言うのね?』
電話越しの義母は、落ち着いた声で私の話を聞いてくれた。
「はい…。この暮らしが続くなら俊さんとの離婚も視野に入れなければと思っています」
『…そう』
横にピッタリ張り付いて電話の内容を聞いている母親が、ごくりと唾をのむ。
「お義母さんから、何か言っていただけないでしょうか?」
『うーん…あのね、沙耶さん』
「はい」
『気持ちはわかるわ。大変なのよね。でも…助け合いながら暮らしてほしいの』
「…え?」
隣にいた母も、思わずポカンと口を開ける。
「た、助け合い?もうそれができない状況なんで、お義母さんに相談してるんですけど…」
『もう少し頑張ってみてくれないかしら』
「…いやいや、頑張れないから実家に帰ってきたんです。そもそも私、俊さんとは結婚しましたけど義弟と甥っ子の面倒を見るのは想定していません。それがわかっていれば最初から結婚していないです。私、他人のために生きれるほど優しくないです」
『でもねぇ…うちは、家族の助け合いを大事にしてるのよ』
ずっと聞いていた母は、信じられないといった顔で私の方を見てきた。電話を変わろうか、とジェスチャーで伝えてきたが、私はそっと首を横に振る。
「そうですか、わかりました」
それだけ伝えてそっと電話を切った。
結婚当初は、まさかこんな展開が待っているなんて思っていなかった。
夫の俊は優しく穏やかで、とにかく家族思いな人だった。私の親のことも自分の親のように大事に接してくれていた。怒鳴って声を荒げるようなこともなく、いつもニコニコと落ち着いている。
義家族はみんな仲良く、和気あいあいとした人たちだと思っていた。私が結婚すると挨拶に伺ったときは、とびっきりの笑顔で迎えてくれたのに。あの笑顔は「家族になるんだから、よろしくね」という脅しだったのだろうか。
「お母さん、私離婚してもいいかな」
暗くなったスマホ画面を見て、ポツリと呟く。
「大丈夫、私たちは何があっても沙耶の味方だからね」
母が私の肩にそっと手を置いてきた。あの日、大和に肩をつかまれたときとは違う。優しくて暖かくて、心強い手だった。