不審な行動が相次ぐ義弟との同居生活に限界を感じ、夫に「追い出してほしい」とお願いした、主人公の沙耶。
しかし、沙耶の前に現れたのは、契約書を差し出し「ひどい嫁だ」とののしる義姉だった。
夫さえも話を聞いてくれない…そんな状況に嫌気がさす沙耶は、さらに追い詰められていく…。
第1話:「最低なんすよ、俺(笑)」突然転がり込んできた義弟の気持ち悪すぎるセクハラ行動
第2話
- 登場人物
- 倉橋沙耶:27歳。育休中の保育士。この物語の主人公
- 倉橋俊:27歳、会社員。沙耶の夫
- 倉橋凛:8カ月。沙耶と俊の娘
- 飯田真由美(義姉):32歳。育休中の会社員。主人公夫婦と同じマンションに住んでいる、俊の姉
- 倉橋大和(義弟):定職につかずアルバイトをしている24歳。俊の弟
- 飯田龍之介:6カ月。義姉・真由美の息子
「“一回”で許してあげる」義弟の最低すぎる脅し

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「ちょっと待ってください。無理ですよ、契約なんて。まず私、セクハラ被害にあってるんですよ?夫から聞いてませんか?お風呂をのぞこうとしてくるし、じろじろ下着を見られるし!耐えられないでしょう!」
「はぁ…沙耶ちゃん、家族ならそれくらい当然でしょ?」
「家族?」
「そう。大和はあなたの弟でしょ?弟に裸見られて恥ずかしいなんて…なに、あんた色気づいちゃって気持ち悪いんだけど」
「家族でも裸見られるのなんて嫌でしょう!それにあなたにとっては弟かもしれませんけど、私にとっては義理の弟、血も繋がってない赤の他人です。夫と結婚しなければ出会うことすらなかった!」
「じゃあ離婚すれば?」
義姉は私の目をじっと見つめてくる。
そんなに言うなら離婚しなさいよ、気持ち悪いんでしょ?他人になればいいじゃない。そう言っている目だった。
「沙耶、離婚は困るだろ?だからほら、契約書にサインしようよ。俺もさ、家賃払ってくれるなら全然いてくれて構わないし」
夫がへらへらとした顔で私にボールペンを渡してくる。
タイミングを見計らったかのように、娘の凜がお昼寝から起きて泣き出した。
「絶対にサインなんてしない」
私はボールペンを置いて、寝室へと向かった。
結局夫が勝手にサインをして、義弟はまたうちにとどまることになった。最悪だった。
「ありえないと思わない?離婚も考えちゃうよこんなの」
友達に愚痴を聞いてもらって、どうにか精神を保っている。いつでも助けになるよと心配してくれる人がいるだけで、なんとかまだ立ち上がれそう。
『話聞いてるだけでキッツいわ…しばらく実家帰ったら?』
「それがさ、4月から職場復帰なの。だから無理だよ…」
義弟の同居が再び決まってから1週間。散々な日々はまだ続いていた。
義弟がバイトをしているので日中はなんとか解放されているものの、夕方からはずっと家にいる。
残業が多い夫の帰宅は大体21時過ぎ。子育てを1人でこなさなきゃいけないことに変わりはないし、何もせずゴロゴロとしている義弟の話し相手にならなきゃいけないことにも変わりはない。
食事が1人前多くなるくらい、なんてことないでしょ。義姉が先日わざわざ家まで押しかけて言ってきた。
仲がいい相手なら別に対して思わない、家族が泊まりに来たのなら頑張って作る。しかし、出て行ってほしいやつのために作るのは負担でしかない。
「とりあえずもう一回夫に話してみようと思う。きのうもソファーでベッタリとなりに座ってきたし、なんか気持ち悪いし…」
「沙耶さん」
突如、背後から声をかけられて震えあがった。
『沙耶?どうした?』
「ごめん…ちょっと切るね」
『うん…大丈夫?』
「大丈夫、また連絡する」
電話を切り、後ろを振り返る。声の主は義弟の大和だった。
「大和くん、おかえり」
力なく笑ってソファーから立ち上がる。
しかし、その瞬間大和は私の肩を背後からつかんで、強引にソファーに座らせた。
「何するの!?」
「いま、俺の悪口話してたでしょ」
冷たい顔で背後から私を見下ろしてくる大和。
大和の身長は180センチ。筋トレをするのが好きだそうで、体型は比較的がっちりしている。
「…だったら何?」
声が震えるのがわかった。
こんな大きくて力のある男性に、何かされたら絶対に逃げられない。大和の冷たい顔を見ると、ふつふつと恐怖が沸き上がってきた。
「いやぁ、悲しいなぁと思って」
大和はゆっくりとソファーの前に回り込み、私の隣に腰掛けた。そして腕を私の肩に回したかと思うと、強引に顔を近づけてくる。
「“一回”で許してあげる」
「は?」
「だって悪口言うとかひどいじゃん、俺許せない」
「…だからって、そういう発想になる?おかしいんじゃないの」
「逆ギレ?怖い怖い。ってか俺に歯向かうの?俺、沙耶さんより絶対力あるよ」
「警察呼ぶわよ」
「えー?無駄でしょ。だって俺義弟だよ?家族の問題は家族で解決してくださーいって絶対言われるって」
へらへらと笑ってこちらを見つめる大和が気持ち悪くて仕方がなかった。カタカタと身体が震え、奥歯がカチカチと音を立てる。怖い。
「何その顔。俺が悪いみたいじゃん」
大和は急に私の顔を見て、肩をつかむのをやめた。そして立ち上がり、客間へと消えていく。
「冗談だよ、ごめんごめん」
私は大和の背中を黙って見つめていた。冗談では済まされない。こんな人と一緒には過ごせない。恐怖がみるみる怒りへと変わっていった。