マンション前でしたの階の住人・小島に付きまとわれた、主人公の真紀とその息子・和也。
マンション住人の協力もあって無事にその場は帰宅したが、真紀の夫・剛志は、小島が恨みを募らせているのではと恐怖を感じていた。
そして、次の日の早朝。渡瀬家に二度目のインターホンが鳴り響く…。
第一話:マンションの入り口で待ち伏せる「下の階」の住人。思わず通報した恐ろしい出来事
第2話
- 登場人物
- 渡瀬真紀:この物語の主人公
- 渡瀬剛志:真紀の夫
- 渡瀬和也:真紀と剛志の息子。5歳
- 花園明:渡瀬家の隣の住民。和也を自分の孫のようにかわいがってくれる
- 小島:渡瀬家のしたの住民
二度目のインターホン

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剛志が目を覚ましたとき、すでに真紀は体を起こしていた。
じっと寝室のドアを見つめ、2人の間ですやすやと眠る和也の手を握っている。
ぼんやりとする意識のなかで、剛志の耳に玄関のインターホンの音が突き抜けた。なんだ、いま何時だ。
枕もとのスマホを確認すると、時刻は5時43分を指している。きょうは木曜日、まだ平日である。
「…誰?」
剛志は体を起こし、真紀に語り掛けた。真紀はフルフルと首を振る。その様子は「わからない」と言っているようにも見えたし、「わかりたくない」と言っているようにも見えた。
インターホンは再び鳴り響いた。
そのあと三度、四度と鳴って、剛志が様子を伺いに行くと、そこにはやはり小島が立っていた。
のぞき窓からじっとこちらの様子を見つめている。見えていないはずなのに目が合ったような気がして、剛志は思わず息を飲んだ。
昨晩仕事から帰ってきた剛志は、自分が少し残業してきてしまったことをひどく恨んだ。
小島にマンション前で引き止められ、暴言を吐かれたという真紀の話を聞いて、どうしようもない怒りに襲われたのだった。
幸いマンション住人による助けのおかげで真紀と和也にケガがないことはわかったが、だからと言って安心できる話ではない。
剛志は厳重注意ですぐに家に帰されたが、今後も同じように接触してくる可能性がある。
それに体に傷はなくても、和也は明らかに心にダメージを負っている。
「歩くときは忍者になるの」と微笑みながら言い、なるべく歩かないようソファーのうえから動かず、ライダーベルトは音が出てうるさいからと電源は絶対にいれない。
「そんなことしなくていいんだよ、大丈夫だよ」と真紀が言っても、和也は「だって、またママがいじめられたらいやだもん」というのだから。
のぞき穴の奥でじっと立っている小島に、剛志は頭のなかで殴り掛かった。よくも妻と息子を!と、勢いよく胸ぐらをつかみ、ゲンコツで顔を殴った。そんな想像をして、それはダメだと首を振る。
そうしてもう一度小島がインターホンを押し、剛志がそのインターホンに出ようとした瞬間、隣人の花園明が勢いよく玄関ドアを開けて出てきた。
「小島さん、いま何時だと思ってるんだ!」
明の怒号が廊下中に鳴り響く。小島はチッと舌打ちをして、そのまま階段でしたに降りていった。
剛志が恐る恐る玄関ドアを開けると、明はほっとしたような顔で声をかけてくる。
「大丈夫かい」
「花園さん、すみません。ご迷惑をおかけして」
「いいんだよ、むしろ迷惑が掛かってるのは君たちの方だろ。謝る必要なんてない。それにここで君が出てきていたら、乱闘騒ぎになっていたかもしれないよ」
剛志は先ほど自分の頭のなかで繰り広げた想像をもう一度思い出し、力なく「そうかもしれません」と口にした。